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2020年02月28日15:20

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【力作】新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』前編

 
2月21日、初日に鑑賞。(私が観た劇場では1週間遅れで公開) 
夕方の回で、客はたったの5人。ちょっと拍子抜けした。


原作 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?&oldid=76387255
公演 https://www.kabuki-bito.jp/theaters/shinbashi/play/604/

前編あらすじ https://www.kabuki-bito.jp/news/5950/



(以下、後編の感想と資料アルバムを仕上げてから、思い出して書いています。汗)

後編の感想日記
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1974845419&owner_id=1833905

資料アルバム「ナウシカ歌舞伎」
https://photo.mixi.jp/view_album.pl?album_id=500000106690049&owner_id=1833905




いつもシネマ歌舞伎を観る映画館で、『ナウシカ』上映予告チラシを手に入れた時、
料金の高さとローチケでしか前売を買えないことで、私は二の足を踏んだ。

どうしよう…。 公演情報を探すと、YouTubeでゲネプロ公開時の映像があった。

菊之助のナウシカを見て、(ん?なんか違う…)と違和感を覚えたものの、


「我こそは、白き魔女と異名をとる、皇女クシャナ!
 刀の錆となる前に、その攻城砲を退くが良い〜っ!」

と、花道で猛々しく見得を切る七之助を見た瞬間、「これ絶対面白い!」と確信。
(残念ながらこの動画は削除された)

フォト



その後、ETV特集「ナウシカ誕生〜尾上菊之助が挑んだ新作歌舞伎〜」を観て、
舞台美術の素晴らしさに惚れ込み、慣れないローチケで前売券を手配した。

 https://www4.nhk.or.jp/etv21c/x/2020-01-25/31/18589/2259683/

公演9日前に合流したせいか、七之助は番組にほとんど登場しなくて残念だった。



予告編を見ても、クシャナ(七之助)の見せ場は不自然なほど採用されていない。
   

松竹の予告編は非公開になった。代わりにディズニーの動画がアップされている。




twitterなどを見ると「クシャナが最高!」という意見が圧倒的に多いのに。
https://photo.mixi.jp/view_photo.pl?photo_id=2324842088&owner_id=1833905

これは、座長・菊之助への忖度??滝汗




私はシネマ歌舞伎の全作品を観ている。 概観すると歌舞伎の現在がわかる。

 【INDEX】歌舞伎/舞台/映画 関連日記
  https://mixi.jp/view_diary.pl?owner_id=1833905&id=1217726421


スーパー歌舞伎、コクーン歌舞伎、平成中村座、野田版、クドカン、
歌舞伎NEXT、納涼歌舞伎、役者の自主公演などなど、まさに百花繚乱状態だ。

猿之助や勘三郎に続く若い役者たちが、さまざまに面白い挑戦を繰り広げている。


そんな中、音羽屋のプリンス・菊之助は、新作歌舞伎への出演がとても少なかった。
シネマ歌舞伎出演は『日高川入相花王』『京鹿子娘二人道成寺』『阿古屋』の3作。
いずれも限りなく古典だし、芝居を見せるというより「所作事を見せる」作品だ。

真面目な正統派プリンス・菊之助は、もしかすると内心焦っていたかもしれない。

だから、満を辞して登場するからには絶対に大成功を収めねば!と意気込み、
準備に5年もの時間をかけ「ナウシカの"古典"歌舞伎化」に拘ったのではないか。



「時代が『ナウシカ』追いついた今こそ、この作品を上演したい」という発想は
すばらしい着眼点だと思う。

同時に、菊之助は「原作の完全舞台化」にもこだわり、
江戸時代以来の通し狂言上演という大チャレンジに見事成功した。賞賛に値する。

(インタビュー)
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ただ…。

「役者・尾上菊之助」としては、今回かなり残念な結果に終わった気がする。


巷の評価は、踊りが上手いとか部分的な褒め言葉ばかり。
ハッキリと「ナウシカが全然ナウシカに見えない」と批判する人も多い。
観ながら私がモヤモヤしたのもそこだった。

ナウシカ好きの若い役者たちが集まり、演出などは活発に意見交換したようだが、
「座頭の役作り」については、誰も意見できない状況だったのだろう。

しかし、「主役が全然ナウシカに見えない」困った仕上がりに影響されず、
脇の役者たちは全員、原作のイメージを見事に体現して好評を得たのであるから、
「スーパーバイザー・尾上菊之助」の手腕は素晴らしかったと言える。




さて。 前置きが長くなったが、前編で印象に残ったポイントについて。
レビューに書ききれなかったことを語っていきたい。


オープニング、神話をレリーフしたインド寺院の壁面みたいなタペストリーを使い
物語世界を説明する尾上右近の口上は小気味よく、客の期待を盛り上げた。

おなじみの音楽は和楽器で奏でる。琴と横笛のしっとりした響きが絶妙にマッチ!

幕が開き、出現した腐海の美術も見事で、紗幕に題字が浮かんだ瞬間、興奮した。

しかし、花道から登場した菊之助ナウシカを見て、(やっぱり違う…)と感じた。



歌舞伎において、役者が花道から登場し、すっぽんで名乗るまでは最重要である。
「出の瞬間に全てがかかっている」と言っても過言ではない。

とにかく、歩く姿でキャラを的確に表現し、観客を説得できなければ失敗なのだ。

模範例として、『心中天網島 河庄』で治兵衛を演じた藤十郎の登場を紹介したい。

https://mixi.jp/view_diary.pl?owner_id=1833905&id=1648996834


この点、七之助クシャナの登場は満点だった。観客は一目で皇女に魅了された。

https://photo.mixi.jp/view_photo.pl?photo_id=2324842087&owner_id=1833905


だが菊之助は「落ち着いた大人の女」に見えた。第一声も仕草も、非常にしとやか。

オーガンジーのマスクを外すと、頬のブルドックラインが目立った。老けている。


私はずいぶん昔にアニメ版を見た記憶しかなく、本作の予習もしていなかったが、
「ナウシカは少女、それもボーイッシュで、超アクティブで、気さくな、自然児」
というイメージだけは確固としてあった。

ところが、目の前にいるのは「古典的な姫様」、それもかなり年上の雰囲気。爆



さらに拙かったのは、舞台中央でキツネリスに噛まれるシーン。

フォト


優美な仕草で差し伸べた手を噛まれたナウシカは「あっ」と一瞬よろめいた後、
全然痛くなさそうな感じで「怖くない、怖くない」と、色っぽく動物をあやした。

(げっ歯類に噛まれたらマジで痛いだろうよ!)と、私は思わず突っこんだ。

「痛っ!」となりながらも耐えてなだめるアニメ版ナウシカの絵が脳裏に浮かんだ。
生き物が大好きな自然児キャラを印象付けるシーンだった。

ステレオタイプな姫様演技に、私のコレジャナイ感は決定的なものとなった。

この点は、岡田斗司夫も厳しく批判している。
https://photo.mixi.jp/view_photo.pl?photo_id=2324843475&owner_id=1833905



前半終盤、強酸の湖に突き進む王蟲の子を押しとどめようとして脚が焼けた場面、
あそこもアニメ同様「アーーッ!!」と絶叫して痛みに転げ回れば良かったのに。

しとやかな菊之助のリアクションは控えめで、毒に満ちた世界が伝わらなかった。
本来あの世界は、優しいお姫様が生きていけるような生ぬるい場所ではない。

ナウシカの役作りが、作品世界のリアリティや切実さをぶち壊していた。
でも、誰も座頭にダメだしできなかったんだろうな。汗



レビューでは忖度したが、ほとぼりが冷めてきたので思い切った推測を書く。

古典が得意な菊之助は、「およそ古典では存在しないキャラであるナウシカ」を
柔軟に演じることが難しかったのではないか。

だから、原作の設定を無視し、自分が演じやすい古典的キャラに変えてしまった。
これは自ら目指したコンセプトと、ファンに対する「重大な裏切り行為」である。

それをごまかすため「古典歌舞伎で」と言っていた、とまでは思いたくないが…。



ナウシカは「全く型破りな、戦うヒロイン」として、人々から愛されてきた。
(これに対し、クシャナは既存タイプの「戦うお姫様」である)

無邪気な少年ぽさ、あらゆる命を愛おしむ優しさ、高い戦闘能力、大胆不敵さ、賢さ、
信念を貫く強さ、愛する者達を守り抜くため自らを省みず勇敢に戦う生き方…

少なくとも、舞台狭しとすばしっこく飛び回らなければ「ナウシカ」ではない。
おっとり優雅な菊之助ナウシカに、スピード感はあっただろうか?

ともあれ、換骨奪胎された菊之助ナウシカは「不思議な魅力」を失っていた。

フォト

  原作のナウシカは泥だらけで果敢に戦うイメージ




ユパ様(尾上松也)の貫禄と男前ぶりは、原作のイメージをアップグレードした。
かっこよく見得を切る姿を見て、仮面ライダーは歌舞伎の影響を受けていると思った。

舞台を降り、客をいじりながら花道に登る演出は平成中村座に倣ったものだろう。
『法界坊』の勘三郎は抱腹絶倒ものだった。

 https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1888767076&owner_id=1833905

場面転換する舞台から客の視線を逸らせる仕掛けで、松也はよく頑張っていたが、
勘三郎を思い出し、つい比べてしまった。 https://youtu.be/YrUGH25IBJY



二幕目の見せ場、ユパと共に本水の大太刀周りを演じた王子アスベル(右近)は
素晴らしい身体能力と運動量を示した。
セット上段ど真ん中でバーンと飛んた時、一流フィギュアスケーター顔負けの
バレエジャンプ(両足が水平一直線になる)をやってのけたのにはビックリ。

元気はつらつ27歳、大ケガした猿之助に代わりルフィを演じただけのことはある。



「お前は隙あらば、わらわを殺す気であろう。言え、どちらの兄の差し金だ?」と
クシャナに詰問されたクロトワ(片岡亀蔵)が、ぱっと豹変してケツを割り、
「知らざァ言って、聞かせやしょう」と弁天小僧をやり始めた時は感慨深かった。

私が初めて歌舞伎の面白さに目覚めたのは中学に上がった頃。
NHKの劇場中継で、偶然『白浪五人男』を観た。弁天小僧は尾上菊五郎だった。
その美しさ、色気、いなせな台詞回し。(なんじゃこりゃー!)とハマった。

あれから幾星霜。 倅の菊之助が『ナウシカ』でパロディに使っているとは。

この直後に見せるクシャナの笑みはオタキングも絶賛。凄絶で、やるせなかった。
https://photo.mixi.jp/view_photo.pl?photo_id=2324843475&owner_id=1833905

余談だが、アニメ版で一番印象に残っていたクシャナとクロトワの名セリフ
「なぎ払え!」「腐ってやがる」はいつ聞けるかしらと楽しみにしていたのだが、
原作にはないそうで、待ちぼうけを食らった。苦笑



マニ族の指導者、精神的支柱である僧正(中村又五郎)の大熱演も特筆に値する。
役に説得力がみなぎっていた。
命をかけた祈りの力には圧倒された。民とナウシカから尊敬されるのも道理。

僧正はナウシカと「念話」をする。生声とエフェクト音声の使い分けは効果的だった。
http://newrottenseascrolls.com/jp/preface_f.htm



公家悪の隈取をした巳之助は、超能力を操る土鬼の皇弟ミラルパを好演していた。
隈取の意味とか装束の約束事とかまったく知らなくても、
「得体の知れない強大な力をもつ、邪悪な敵役」であることは一目でわかった。

クシャナ同様、役の説得力はすばらしかった。彼は全身から邪気を放っていた。
皮膚が不気味に拍動する巨神兵を前にしても、決して負けない存在感があった。

声と台詞回しの凄みにも痺れた。巳之助の声はドスがよく効いていて好きだ。

アニメ版ではいなかったキャラだが、巷の評判によると「原作に忠実」らしい。
結局、原作を知る知らないに関わらず「原作を忠実に再現したキャラ」が好評だ。

つまり、この観点からも、菊之助ナウシカの不評は当然と言える。



新旧タイプの「戦う姫」がWヒロインとして物語を牽引してこそ面白かったのに。

菊之助は、「どう見ても不安定なトリウマ」に無理くり乗ることにこだわるよりも
野田版や劇団☆新感線っぽい駆け回るアクションに挑戦する方が良かったと思う。

(転落・骨折・休演の報道)
https://photo.mixi.jp/view_photo.pl?photo_id=2324842100&owner_id=1833905

彼は立役も演じるのだから、その気があれば十分できたはず。
ナウシカがパワーアップしたら「古典」じゃないと言うなら、古典でなくていいです。



最後にフォローすると、菊之助はさすが、所作事は素晴らしかった!

ETV特集で丁寧に作りあげていく様子を見たが、精魂を傾けただけのことはある。
アニメ版の神話的なラストが、古典的手法でエモーショナルに表現されていた。

フォト


子王蟲を踊った子の、清らかで儚く優しい佇まいも美しく、これぞファンタジー。





何日もかけて、この感想日記をようやく仕上げることができたのは
目の肥えたレビュアーさん方のご感想を拝読し、記憶を蘇らせたおかげです。

ここに謝意を表し、素晴らしい日記の数々をリンク紹介させていただきます。



mayaさんの日記 
新橋演舞場 『風の谷のナウシカ』 2019年12月24日
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1974081673&owner_id=8677079

44ヨシモトさんの日記 
菊之助のナウシカ、七之助のクシャナ 2020年01月16日
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1974360133&owner_id=24016198

猫柳さんの日記 
ナウシカ歌舞伎【前編】 2020年02月28日
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1974815488&owner_id=140098

ひつじさんの日記 
新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」ディレイビューイングを見る 2020年03月05日
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1974879127&owner_id=37214



ついでに、自分の関連ページも再掲

後編の感想日記
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1974845419&owner_id=1833905

資料アルバム「ナウシカ歌舞伎」(コメント欄で文字資料を紹介しています)
https://photo.mixi.jp/view_album.pl?album_id=500000106690049&owner_id=1833905

【INDEX】歌舞伎/舞台/映画 関連日記
https://mixi.jp/view_diary.pl?owner_id=1833905&id=1217726421


http://mixi.jp/view_item.pl?reviewer_id=1833905&id=4911377


 


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