mixiユーザー(id:330483)

2019年12月15日23:49

49 view

Coccoライヴ「スターシャンクツアー」 2019年12月13日(金) 東京国際フォーラムAホール  

2016年のNHKホール以来3年ぶりにCoccoのライヴを見た。
 
2001年に『サングローズ』を出して一時活動停止するまでのCoccoは、私にとって史上最高レベルに重要なアーティストだった。キング・クリムゾン、ニルヴァーナ、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、ニール・ヤング、U2など洋楽ロックのエッセンスを凝縮したサウンドに激情むき出しのヴォーカルが乗るCoccoの音楽は、ロックミュージックが到達した最高峰の1つだったと思う。
しかし2006年に復帰した後の彼女は、故郷の沖縄に根ざした柔らかなポップスが主体になり、その音楽性の変化についていけない部分があった。復帰後の『ザンサイアン』から『アダンバレエ』までの5枚のアルバムは、一応買いはしたもののほとんど聞いていない。悪くない曲もあるが、自分が今聞く必然性が見いだせないものがほとんどで、様々な音楽が溢れる中で積極的に聞く気にはならなかったのだ。
しかし今年出た『スターシャンク』は少し様子が違った。初期のダークでハードエッジな感覚がだいぶ戻って来たのだ。さすがに初期ほどの破壊的な強烈さは無いが、ヒリヒリするような切迫感と血の出るようなリアリティは、まさに『サングローズ』以来のもの。近年の彼女らしいポップな楽曲や沖縄テイストな楽曲もあるが、それは初期のアルバムにも混じっていたもので、全体としてはこれが『サングローズ』に続くCoccoの5枚目のアルバムのような錯覚すら覚える。決定的な名曲が無いのが残念だが、アルバム全体の流れは、復帰後の作品としてはダントツだった。
 
 
その『スターシャンク』をフィーチャーした今回のライヴ。全19曲中11曲が『スターシャンク』の曲(やらなかったのは「Ho-Ho-Ho」のみ)で、バンドのダイナミックな演奏や素晴らしいライティングもあり、スタジオ盤以上に見事なCoccoミュージックになっていた。
 
初期(一時休業前)の曲でやったのは「強く儚い者たち」「Raining」「樹海の糸」の3曲のみ。それでも不満を感じないほど『スターシャンク』の曲が見事だったし、古い3曲との落差のようなものを全く感じなかったのにも驚いた。
2011年にTOKYO DOME CITY HALLで見た「ザ・ベスト盤ライヴ」は、そのタイトル通り、時系列順に並べられたベストアルバム『20周年ベスト』を(ほぼ)そのままの形で再現するものだった。「カウントダウン」から「焼け野が原」までの前半は息を呑むほど素晴らしいもので、復帰後のCoccoが何らテンションを落とすこと無く初期のダークでハードなナンバーを歌えることに驚いた。ところが復帰後のソフトなナンバーが並ぶ後半で、聞いているこちらのテンションが見事に落ちた。あのライヴによって「復帰後のCoccoの音楽は、やはり私には無縁なもの」ということが、自分の中で確定してしまった感がある。
ところが今日のライヴでは、そのような昔の曲と最近の曲との落差を感じることはなく、全ての曲を1つの流れとして聞くことができた。実のところ今日歌われた初期の3曲「強く儚い者たち」「Raining」「樹海の糸」は、一般的には人気があるが、私個人としてはそこまで好きな曲ではない。私にとってCoccoの最高の名曲と言えば「焼け野が原」「あなたへの月」「けもの道」「雲路の果て」など極限の緊張と疾走感に溢れたドラマチックなハードロックと、「ポロメリア」「やわらかな傷跡」などの美しすぎるバラードだ。ところが今日のライヴでは、さほど評価していない初期3曲も実に素晴らしい仕上がりになっていた。特に「樹海の糸」の美しさは、スタジオ盤も復帰前のライヴも超えているように思えた。
そして「Raining」を聞いた時には思わず涙が出そうになった。この歌を聞いていた20年ほど前の様々な記憶が、突然洪水のように脳内に甦ってきたためだ。別に悲しい思い出とかではない。他人から見ればどうでもいいような日常的なことばかりなのだが、当時の記憶がありありと蘇り、もうその日々に決して戻ることはできないという喪失感を覚えたとき、危うく涙が出そうになったのだ。Coccoの歌によってそこまでリアルに記憶が甦ったことも驚きだった。
 
席は2階の真ん中あたりと決して良い席ではなかったのだが、それもさして不満に感じられなかった。それほど、音楽があの広い会場の隅々まで満たしていたからだ。Coccoの歌声もさることながら、バンドの演奏もPAもライティングも全てが見事だった。
演奏では、特にドラムスが素晴らしく、一体誰だろうと思っていたら椎野恭一(ex. AJICO)。そうだ忘れていた。もう10年以上前からCoccoのライヴでは椎野がドラムスを叩いていたのだ。椎野恭一なら素晴らしいのは当前だ。私が日本で一番好きなドラマーを3人選べと言われたら、椎野恭一/三原重夫/池畑潤二になりそうだ。三原と池畑の2人はルースターズの出身者、椎野も花田裕之のソロワークに何度も参加している。花田は一体どれだけドラマーに恵まれているんだ。
もちろん椎野1人が突出しているわけではなく、バンド全体が完璧。ヴォーカルをメインに立てつつ、全員がそれぞれの音楽的主張を入れてくる。それでいてエゴのぶつかり合いになったりせず、バンドとしての巨大なグルーヴを生み出し、会場を満たしていく様は圧巻だ。
ベーシストでありプロデューサーでもある根岸孝旨が、Coccoの音楽にとってどれほど欠かせない存在であるかはファンなら良く知っているはずだ。私が好きな初期の音楽性も、根岸の洋楽ロックの素養に基づくものだろう。「Cocco」とは、歌手のCocco1人を指すわけではなく、Coccoという名の「バンド」なのだ。
 
ところで観客は意外と若い女性が多い。ただよく考えたら、この人たちは初期のCoccoとか見ていないのでは…と思って、初めてCoccoのライヴを見てからの20年以上という歳月の重みがズシンと来た。
一番驚いたのは、それをディケイドで数えると、1990年代/2000年代/2010年代、そして来年以降に見たとすれば20年代。足かけで言うと何と「4つのディケイド」にまたがって私はCoccoのライヴを見ていることになるわけだ。マジか!? 私はもちろん、Coccoも当然その分 歳を取っているはずなのだが…全然変わっていないように見えるのは何故だ??
 
そんな具合で、予想以上に感動してしまった今回のライヴ。2006年の復帰後は、決して良いファンだったとは言えないが、2019年の今になって、しばらく疎遠になっていたCoccoの音楽とようやく再会できたような気がする。次のライヴも必ず行くことにしよう。

1 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2019年12月>
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031    

最近の日記