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2019年03月07日23:41

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マイロ・スレイドにうってつけの秘密

 『泥棒は几帳面であるべし』という大好きな本があって、その本が作者の一作目の作品だと聞いていたので、二作目って出てたりするのかな〜と、ふと思いついて検索してみたら、去年の三月にもう出ていた。それがこの本『マイロ・スレイドにうってつけの秘密』だ。

 主人公がかなり特殊な人物なのは一作目と似ているが、どこか「ああ〜程度の差こそあるけど、そういうことあるよね」って感じの人物。
 実に善良で、思いやりもあるけれど考えすぎて引っ込み思案な人物で、その辺は『泥棒は几帳面であるべし』と似ている。その上で、マイロは正業について真っ当に暮らしているし、既婚者でもある。ただし、かなり変わった秘密を持っている。ついでに言うと、けっこうなオタク気質。友人4人と毎週水曜日にD&Dの会を会場を持ち回りにして開き、ビデオゲームも好きだったりして、コーヒーや酒は得意ではなく、レストランでもコーラを飲みたい、そんな人。妻はその辺が気に入らないらしい。
 秘密というのは、緊張が高まったときにストレスからなのか、急にある特定の行動をしなければならない欲求に駆られる、というもの。
 ある特定のジャムの瓶をポンと開ける、角氷をケースからバリッとはがして落とす、ボウリングでストライクを出す、カラオケで特定の歌を歌う……そうした欲求が、突然襲ってくる。ただし、彼の人生においては普通のことなので、対処もかなり慣れている。他人から(いや両親からも)隠し通すために、胃が痛くなるような苦労をして、車に隠しておいた瓶のふたを開けたりする。
 しかも、その秘密の欲求を頭の中から命じてくるのが、Uボートの艦長なのも面白い。いや、本人にとっては謎のストレスなわけだが。
 で、秘密の行動をなしとげると開放感に満たされる。ジャムの瓶をひとつ開けただけではだめで、何本も開けたりする辺りは、読んでいて大変そうで「うは〜」となってしまう。だが、衝動や苦痛をこらえたあとの開放感、わからなくもないのだ。
 この秘密の中にも、オタクなやつがあって「スターウォーズのエピソード3を見る」というやつ。何度も繰り返し見ているウチに、いつか違う結末が見られるのでは無いかと思って見る──という辺りがまた、「ああ、なんかわかる〜」という気分にさせる。私なんかは、「自分の気に入った結末までをリアルに想像してそれを脳内で鑑賞する」とかしてしまうけど。
 そんな主人公が、他人の秘密を知ったときにどうするか──というのがメインのお話なのだが、同時に妻との関係なども進行していく。
 素晴らしいと思ったのは、話そのものの構造が、この主人公マイロが抱えている秘密を再現しているところだ。主人公にかかる重圧や、どんどんややこしくなっていく事態(まあ、大体においてマイロ自身の生き方がその原因を作っているのだが)に、読者は読み進むにつれて「ああもう! さっさと秘密をぶっちゃけて理解してもらえばいいのに!」みたいな気持ちになる。その気持ちが限界に近くなった後半も後半で、不意に「シュポッ!」と解放されていく感じにその事態が展開していくのがたまらない。絶対に、狙ってやっている。
 それでいて、結末は「ああ〜 そうだよね。そうこなきゃね!」みたいな意外なラスト(矛盾するようだが、こうとしか言いようがない)だったりするし。やっぱりね。そうなるよね。みたいな。
 それから、わりとD&Dがしっかりと出てくる話だったな〜とも思った。
 気になったのは、各章の独特の構成か。まずマイロが行動した結果を端的に述べておいて、そこに至るまでの過程をあとからじっくり説明する──という文章がけっこうあって、読み進めて一瞬戸惑うときがあった。

 もったいないな〜と思ったのは、カバーや帯にD&Dとかスターウォーズのことが一言も書いてないこと。もちろん、前作『泥棒は几帳面であるべし』のファンは、ここにある説明だけで私と同様に買うだろうけれど、世の中には「D&Dが出てくる」というだけで興味を持つ人もいるから、新規の読者も獲得できるだろうに……と、ちょっと思ったのだ。

 面白いしお薦めだが、個人的には『泥棒は几帳面であるべし』のほうが好きかな。
 どちらも、微妙に自分に自信が持てない人はとっても勇気づけられるお話で、お薦めですよ。

 そうだ、あと絶対に映画『明日に向かって撃て!』が観たくなるよ。
 だから、あの映画のファンにも読んで欲しいな。
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