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2018年12月21日13:14

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有馬記念の思い出・2

有馬記念の思い出・2

ホールで働いている女性達は、2〜3人は常時いたように記憶している。全員、和服を着ていて、その上に白い割烹着を着ていた。その中で記憶に残るB子さんがいた。名前は全く覚えていないが、顔立ちはハッキリ覚えている。背の高さは160センチ弱ぐらいで、背が高いわけでも低いわけでもなかった。B子さんは、後ろ髪をキュッとひっつめにしていて、切れ長の色白の人だった。たぶん私より10才ぐらいは年上だっただろう。いやもう少し上だったかもしれない。明るくて、ちょっと男っぽい気っぷの良い人だった。すこし東北なまりのしゃがれ声で、板前さんに「刺盛り入りまーす」「3番のお客さん、まだ出てないけど、作ってる」「あいよ」てな感じで、テキパキと働いていた。
そのお店では一番若いせいか、私はモテた(笑)かなりもてた(笑) そのお店は、お客さんと洗い場、板場との距離感・空気感が近い、庶民的なお店だった。ある時、カウンターの初老男のお客さんから、「物」をもらった事があった。洗い場にいる私に「おう、あんちゃん、やるよ、これ」って感じで「物」をもらった。それが何だったかは、もう記憶がないが、そんな高価な物ではなかったように記憶している。なんで俺にくれるのかなぁ、と思ったが、洗い場に一番近いお客さんだったので、私にあげやすかったんだろう。一人でよく来る常連さんだった。誰かと話をしたかったのかもしれない。

そんな事があったりした日常で、ある時、カウンター越しにB子さんが私に、

B子「これお客さんからもらったから、あんたにやるよ、もらって」
と、ある「物」を差し出した。それは、指輪だった。むき出しの「リングの指輪」だった。
私「(戸惑って)え、ええ、はい、ありがとうございます」
B子さんは、私に向かってウィンクした。私は、軽く会釈をして返した。B子さんは、うれしそうにルンルンとスキップするかのように、ホールに戻っていった。私はその指輪をはめようとした。左手の薬指にすると、ぴったりだった。なぜかぴったりだった。なんだろう?なぜボクにこの指輪をくれたんだろう。ホールのB子さんは、なんだか楽しそうに働いているように見えた。B子さんは、誰にもらったんだろう?本当にお客さんからもらったんだろうか?ボクはあまり深く考えなかった。バカな若者だった。まだ、東京に出てきて半年だった。

バカでウブで恋愛経験もないボクは、左手に指輪をはめる意味を、本当は理解していなかった。数日後、久しぶりに大学に行ったボクは、その指輪を左の薬指して、所属していた映画研究会の部室に行った。なんか、ちょっと大人になった気分だった。すこし自慢もしてみたかった。今、思い返せば、赤面するしかない。お恥ずかしい。しばらくたつと、部員の女子が、私の薬指のリングに気がつき「吉川君、結婚したの?」と、おそるおそる聞いてきた。私は、一瞬で意味を理解した。そうだ、大人になって結婚すると左の薬指に指輪をするんだ。そんな事を理解しないまま、いや知ってはいたけどそんな重要な事と思いもしないまま・・・・ボクは「いや、いや、これはちょっとね」と照れ笑いをしながら、そっと指輪を外した。ひとつ大人になった瞬間だったかもしれない。

そうそう、有馬記念のこと(続く)


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