mixiユーザー(id:1640816)

2018年07月25日16:10

207 view

エヴァンゲリオン二次創作 「ゼロ・チルドレン」 �� 「ガリラヤの子供たち」

  すべてのものは人びとのうちにあり得ず、
  そは人の子は死なぬものにあらざればなり。
  日輪よりも明るきものは何なるや、
  されどその光もまた滅びん。
  まして肉と血とは悪をたくらむ。

  ――ベン=シラの知恵 「アポクリファ(旧約聖書外典)」

2×××年×月×日午後6時、大地震及び津波発生後の追波湾。
夜の太平洋上を飛行するヘリコプターからの視点で、夜間照明で照らされたメガフロートが浮かび上がる。
メガフロートからは十数機のヘリや偵察機が飛び立つが、どの機も国籍不明である。
着陸したヘリから降り立ったコート姿の紳士に向かって、黒一色の軍服に身を包んだ男が敬礼し、「冬月教授ですね?こちらです」と先を促す。

冬月と呼ばれた男が案内された先には、海中から回収された数十人の水死体が並べられていた。大人よりも子供が多い。
「小学校がまるまるやられたのか・・・」と冬月。

子供たちの遺体の間を縫うようにそれぞれの状態を調べて回っている白衣の男。
「大人はバラして使える臓器を各病院に回せ!子供はレベルAからCまでは二号タンクへ、レベルD以下は七号タンクへ運べ!!」
「秋月・・・」
冬月の呼びかけに気づくと、男は破顔一笑し「冬月、来てくれたか。話は後だ、溺死からすでに四時間は経っている、選別を手伝ってくれ」と言って、「右端下から頼む」と作業に戻る。
冬月、コートを脱いで軍服の男に渡し、ペンライトと人体電位測定器を持って、真っ青に青ざめた子供の死に顔に顔をゆがませながらも、眼球を照らし、子供の手に測定器を当てて、脳死レベルの選別作業を始めた。

真っ暗な海に向かって慟哭する親たち。
「わらすたづを返してけろ!!」
「頼むから、ほぬに頼むから」
「なして、なして」

×年後。
南極大陸アムンゼン海から30km沖の太平洋上。さらに巨大化して人工島の様相になったメガフロートが浮かんでいる。滑走路に並ぶヘリコプターや偵察機は爆破されたかのように破壊され、潮風にさらされて錆がいたるところに浮き出ている。艦橋に当たる建造物は窓ガラスがあちこち割れ、内部は荒れ放題。そこを通り抜けて反対側の滑走路が画面いっぱいに広がると、ザラザラした滑走路面に大きく何かが描かれているのが映し出される。

それは逆三角形の左に三個の眼、右に四個の眼が並べられた図であった。

七号タンクと書かれた部屋の戸がプシュッと開き、巨大な水槽のなかにオレンジ色の液体が満たされているのが目に入る。
しばらく眺めて、プシュッと戸が閉まる。

二号タンクと書かれた部屋の戸が開くと、七つのカプセルが並び、そのなかに三人の男の子、四人の女の子が横たわっているのが目に入る。
真っ白な女性の両手がコントロールパネルに伸び、軽快な動きでキーが叩かれる。
カプセルが全てゆっくりと開き、なかの子供たちの目がピクピクと動いて、身体を起こすまでに数時間が過ぎていく。

「ここは・・・?」
「何よ、この格好・・・」
「ヘンな宗教の信者みたい・・・」(白い僧衣)
「何が一体どうなって・・・?」
「おなかすいた・・・」
「いい匂いがする・・・」
「向こうからよ・・・」

続き部屋になっている隣の部屋へ次々と入っていく子供たち。細長い木製のテーブル、丸太を割っただけの簡素な長椅子があり、その上にパンと湯気の立つスープが七人分置かれている。
思わず席に着いてめいめい勝手に食べようとすると、全員、テーブルの上座に座った修道女に気づく。若い女性で真っ白な肌に赤い目をしている。その背後には十字架。
「みなさん、食前のお祈りをしましょう、私の真似をして下さい」と若い修道女。「父よ、あなたの慈しみに感謝いたします(と合掌)。」全員素直に合掌して同じ言葉を繰り返す。「ここに用意された食事を祝福し、私たちのこころとからだの糧として下さい、父と子と聖霊の御名において、アーメン(と十字を切る)」全員後に続く。

食後の祈りが終わり、修道女が立ち上がってそれぞれの子供たちの頭を撫でていきながら、状況の説明をしていく。
「私はミリアム。ゼーレというキリスト教系宗教団体の修道女をしています。ここは南極に近い太平洋上の人工島・・・あなたたちは×年前の大地震で発生した津波に呑まれて亡くなった子供たちを精神的に蘇生させた人造人間です。こころはそれぞれ脳波が強いままだった子供、からだは損傷が少なかった子供の遺伝子から複製させました。あなたは、小野寺ヒロシくん。ヒロシくんだった頃を覚えてますか?」
ヒロシくんと呼ばれた男の子は戸惑いながらも「はい、ええと・・・大山小学校四年三組の・・・小野寺です・・・」
小野寺ヒロシに続いて記憶を確認されていく他の子供たち。

内海タケシ。大山小学校四年二組。
土井トオル。大山小学校二年一組。
土井ミドリ。大山小学校六年三組。(トオルの姉と紹介され、二人とも姉弟であることを覚えていた)
長田ナオコ。大山小学校四年三組。
佐々木ジュン。大山小学校一年二組。
五十嵐フィーネ。大山小学校四年一組。(オーストリア人とのハーフと紹介されるが、本人は覚えていなかった)

「みなさん・・・これから私とともに一家族として、この島で暮らすのです。あなたたちは一度亡くなった以上、日本へは帰れません。ここで新しくやり直すのです。いいですね・・・寝起きはこの奥の男子部屋、女子部屋に分かれて使いなさい。トイレもお風呂も各部屋にあります。それでは夕食の時にまた集まりましょう」

しばらく虚脱状態。
それぞれトイレに行ったりして、お互いの知っている、あるいは覚えている顔を見合わせながら押し黙っている。
しばらくしてやっと最年長のミドリが口を開いた。
「あたしたちが死んだんですって・・・?何を言ってるのかしら、あのオバサン」
「オバサンじゃないよ、おねえちゃん」とトオル。
「うるさい!ガキのくせに生意気言うな!」
「とにかく・・・外へ出てみようよ」とヒロシ。
「そうだな、まずはそこからだ・・・ヒロシ、隣の組のタケシだ。サッカーでよく対戦してただろ?」
「うん、覚えてるよ、タケシ」
よし、と立ち上がるヒロシとタケシ、みんなはここで待ってて、見てくるからと二人して部屋を出る。振り返って戸の上に「二号タンク」とあるのを見て、顔を見合わせる。
「どっちだろう?」とタケシ。
「右へ行こう」とヒロシ。右へ曲がって廊下の先へ向かう。

オレンジ色の液体で満たされた七号タンクの水槽のなか。
様々な記憶が溶け込んでいる。
津波に呑まれて真っ暗闇のなかに落ち込むところから引きずり戻されて、自分の短い一生を走馬灯のように再生する記憶。
誕生を通り抜けて、赤い海のなかに漂うと、突然1930年代にイギリスはソールズベリーとウィンチェスターを襲った大災害の記憶がきらめいた(註1)。
タルトレットという男が宇宙に吸い込まれて巨大化し、ものすごいスピードで星雲と化していったという妄言のような証言が流れたが、ゼーレはドイツのトレプトゥ観測所の記録に基づいてすべてを真実と受け止め、当の証言者を拉致して赤い海のなかへ溶かしたのであった。
タルトレットが宇宙に吸い込まれて神となった際に、ソールズベリーとウィンチェスターを廃墟と化した現象を「ニア・ファースト・インパクト」と呼び、ジャイアント・インパクト以来の人類史上初の意識された超常災害と位置づけた。

この時より人類補完計画の大本が成立し、長年の準備が重ねられてきたのである・・・

人間は意識して災害を起こせる地球上まれな生き物だ。他の生命はどんなに進化を繰り返しても自分の棲む星を壊すほどまでにはいかない。リリスの血と肉は破壊に向かってまっしぐらに突き進む・・・オレンジ色の液体に溶け込んだ無数の魂が呻くように、泡立って波打つ。

女子部屋。トイレにまたがって用を足しているミドリ。イライラしているらしく眉間にシワを寄せている。下腹部に疼痛を覚え、唇を噛む。便器の水のなかに滴るそれが赤い輪を作っていくのを見て、ミドリの顔が驚愕に歪む。
ドアの向こうではフィーネとナオコがジュンと向かい合って女の子座りをしており、男子部屋ではトオルがひとり膝を抱えて寂しく座っていた。

一枚のモノリスを前に立つミリアム。
老人の声が響き渡る。「エヴァを操る子供はエヴァと同化出来る者でなければならぬ・・・好機に恵まれて得たマテリアルだ・・・うまくやりたまえ・・・」
「すべては計画通りに・・・」とミリアム。

地の底からのような距離をエレベーターが上がり、扉が開いて、ヒロシとタケシは初めてメガフロートの滑走路に立った。
「ううっ、寒い!!」とタケシ。
「ここは・・・南極?一体どこなんだ!!」ヒロシが叫ぶ。

二人の眼前には記憶のなかの知識として所有している、南極大陸を遠く眺める暗い洋上ではなく、真っ赤に染まった洋上で、無数の灰色がかった氷の墓標があちこちから突き出していた。黒々とした雲が二人のこころをわしづかみにするように垂れ下がり、二人の表情は次第に沈んでいった。


註1・・・ジャン・レイ著「新カンタベリー物語」(創元推理文庫)収録の「バラ色の恐怖」にて言及。もちろん創作ではあるが、私は幻想文学上で語られたエヴァに近い設定として流用した。
1 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2018年07月>
日 月 火 水 木 金 土
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031