mixiユーザー(id:1640816)

2018年07月07日16:13

491 view

半自伝小説 「聖ジュネ」 Saint Genet 4.

「人間性の現実(レアリテ)とは奇妙なことに波動力学の原子たちに似通っており、波動の流れに結びついた微粒子から出来ているように見える。人間性の現実は、その偏執癖や気がかりや陳腐化した反芻癖などのなかに沈み込んでしまった時にも、それはすでにいつの間にかそこを脱して、はるかに前の方へ進んでいるものだ」


少女は戸惑っていた。
私は彼を満足させているだろうか?私の身体は彼に飽きられていないだろうか?私は彼に捨てられないだろうか?
そんな不安をぶつけても、彼は答えなかった。
彼は答えるまでもなく、そんな不安には全く興味がなかったのである。
ただ、二人で進む道を歩いているだけだった・・・
彼はおいでと手招きする。私は横に並ぶ。手をつなぐ。肩を寄せる・・・
でも彼はいつの間にか一人で先頭に立つ・・・

彼がほんとうは独りなのは知っていた。
独りであることを何よりも好むのも知っていた。
彼にとって他者とのかかわりは、彼が彼自身であることを確認するためなのだ。

私も彼の愛読書、サルトルの聖ジュネを読んでみた。
丁寧に読むと何が書いてあるのかさっぱり分からなかったが、ぱらぱらと無造作にページをめくっていくと、稲妻のように次の言葉が目に飛び込んできた。

ある自恃念の強い女たちは、口淫を男性への屈従のしるしとみなすどころか、そこに男性に匹敵するものになるための手段を見ている。口淫によってこの種の女たちは、男性を所有しているように感じ、それで彼女たちは、突き通されるままになるよりも、口淫を行う方を一層余計に好むのであろう。

全くその通りだと少女は思った。
フェラチオは嫌いではなかったが、しゃぶれ、しゃぶれとせがんでくる男は嫌いだった。征服欲が見え見えだったからだ。そんな男には抱かれたくなかったので、無理矢理手コキでいっぱい射精させて、逃げるように帰ったことが何度もあった。

彼はそうではなかった。しゃぶれ、と強要しなかった。それどころか、いつまでも私のを舐め回していた。熱心にクリトリスを吸い出し、歯を立てて掻き出し、舌で転がし、軽くイクと、舌先を尖らせて膣に突っ込み、子宮に届かせる・・・たまらなくなって、彼の顔を見ると、彼の目はまっすぐ私の目を覗き込んでいた。私の反応を観察しているのだ。そうやって私のことを蕩かして、ハメて、勝手にイクつもりなんだろう、と思ったが、そうではなかった。尻を彼の顔に向けて、舌先が突き刺さったまま、彼の胴体の上に腹ばいになり、ペニスをまさぐったがそれが全く勃起していないのにひどく狼狽した。彼は不能なのだろうか?そうではないことはすぐ分かった。私が一回激しくイクと、彼は嬉しそうに「私と同じように身をくねらせて反応を真似していた」。
それから・・・逆襲とばかりに、私が彼のペニスを口に含んで、激しくしゃぶると、彼はさっき私がそうしたように、「私のように悶えていた」。ペニスも大きく膨らみ、硬く、高くそそり立つ・・・そうして射精するのだが、彼の反応は全く私そのものだった。

実に奇妙な気分だ、と少女は思った。まるで地球に初めて降り立った宇宙人が地球人のあれこれを学ぶために真似しているのを見ているような感じだった。

このー、と彼の首を絞め、サディスティックに彼のペニスにまたがって、腰を沈め、全部飲み込むと、踏ん張った太ももの筋力で尻を浮かせて、ペニスを抜き、またくわえ込んだ。その動作をゆっくり繰り返しながら、彼女は彼の顔を見下ろした。彼はまっすぐ見つめかえしていた。彼の唇が動いていた。何かを言っていた。声に出さず、同じことを何度も繰り返していた。

気持ちいい・・・

でもそれは彼がそう言っているのではなかった。私自身の口から漏れたのを彼が繰り返しているだけだった。でも彼もそう感じているのは間違いなかった。その証拠に・・・私のなかで彼のペニスはさらに膨らみ、私の膣は彼のをしっかり揉み込むようにして攣るように激しく締めつけ、脳天から突き抜けるようなものを感じ、彼のペニスから何か熱いものが溢れるのを感じた。

同時にイクのは滅多にないことだった。少女はなんだか嬉しい、と思った。
そして彼を形作っている、彼自身の孤独さを受け入れられるような気がした。

お互い、匹敵するものになるために、口淫に耽る・・・

それこそが彼のセックスなのであった。



少女の部屋にあるのは、ぬいぐるみ、人形、数冊の本、それからいくつかの思い出の品々。
その部屋の主は、いつまでも年をとらない、幼い頃の少女自身だ。
密閉された世界で満足していた幼女が初めて外界に興味を持つ時、部屋の物が増えていく。増えたのはまず本だった。
彼と同じ物を読もうとして、少女が最初に買った本だった・・・

アンドレ・ブルトン著「ナジャ」。

全くわけのわからない本だった。男というものはわけのわからない、謎めいた女が好きなのだろうか?
彼もそういう女が好きなのだろうか?
全く当惑してしまった。だとしたら、私はどうすればいいのだろう?
気が早いかもしれないが、彼の子を産んで、そこそこ幸せな中流家庭を築くことを真剣に考えてみたこともあった。
彼もそうなったら、笑顔を見せてくれることだろう・・・
しかし、幼女は首を横に振った。それは笑顔ではないのだ。そこにあるのは彼の顔ではなかった・・・空虚な、暗黒の洞だった・・・

彼が見つめているのは、私を通した、彼自身なのだ。

だから、幼女はだんだん彼自身に変身していく。部屋のなかがすっかり彼好みになり・・・私であったものがすっかり様変わりし・・・私はだんだんおかしくなっていく・・・

ナジャ。

あたしはだれだったのかしら?もう何世紀もまえのこと。あのころ、あんたはだれだったの?・・・


ナジャの言動に、私はもう少しでおかしくなりかけた私自身が落ち着きを取り戻してきたのを感じた。ナジャがそうであるように、自分というものにとらわれずにいれば、何かがだんだん分かってくるような気がした。彼が見つめていたのは、結局、誰でもないのだ。彼自身、自分というものが分からなかったのだから。
誰でもそうなのだ、と幼女は悟った。
一生をかけても自分というものはついに分からない・・・
だから、謎は魅力的なのだということも・・・

そこに至って、少女は、彼のヌードデッサンのモデルを嬉々として引き受けるようになった。

おのぞみなら、私はあなたにとってなんでもないものになるわ、足跡のほかはなんにもなくなってしまうかもしれないわよ・・・

吹奏楽部から借りてきたサキソフォンを抱きかかえるように指示され、片手片足をそれぞれ包帯できつく折り畳まれて縛られ、あたかも欠損しているかのように細工されると、少女は興奮した。これが彼の謎の表現なのだと・・・

彼は優しくキスしてくれた。少女はそれを心の底から嬉しいと思ったが、なぜか哀しくなってたまらなくなり、涙が溢れてくるのを抑えられなかった。



私はかつてサリドマイドの奇形の美少女であった、不具の美少女から手紙を受け取っていた。それは彼女の死後、届いたものであった。
彼女は自殺したのである。

自殺の理由はまさにジュネの「花のノートルダム」そのものであった。

感動にたえきれなくなって、頭の上に途方もなく大きく開いた自分の口で自分自身を呑み込みたくなり、自分の全身、果ては宇宙までもその口を通って、こうして食べられたものの一塊と化してしまい、それが次第に消え失せてしまう。

大人たちは将来を悲観して自ら生命を絶ったのだと、自分で一番納得出来る理由に飛びついていたが、私たちほど悲観というものから遠ざかっているものはいなかった。

乙女の理想的な死に方だ、と私は思った。

陶酔の真っ只中にあって、そこから醒めることなく永遠の時のなかに身を躍らせる・・・
私は自分でも不思議なくらい、悲しみを覚えなかった。寂しいとさえ思わなかった。むしろ羨ましく思い、自分の思い通りに死をデッサンすることに果てしない憧れを感じた。

でもそう思っただけで、私はそれほど陶酔に浸ることを善しとしなかった。
美しくはあるが、誤魔化しでもあるからである。
それもひどい誤魔化し方だ・・・

美の結晶化は同時に、自由を奪ってしまう。

私は美というものがもっと苦しみ、悶え回るのが見たいのだ。自由自在に歪んでも、その美が損なわれないとしたら、美は正真正銘、美であり続けるだろう。

ウロボロスの蛇が意匠化されるのは、それが自分の尾を呑み込んで消滅するからではない。これからもずっと呑み続けるからである。その現在進行形の「輪」のなかに、人は全てを見るのだ・・・

蛇は自らの尾を呑み込んでいるのだ、苦しくないわけがない。その苦悶にのたうちまわる姿もまた、意匠化される大きな理由である・・・

私は夜中に彼女の墓をこっそり訪れ・・・真上を金槌と鏨で少しずつ彫り・・・ウロボロスの蛇を完成させた・・・
それが彼女の手紙への私の応えであり、私なりの彼女への愛であった。

まわる、まわる、まわり続ける大蛇
まわる、まわる、まわり続けるあなた
まわる、まわる、まわり続けるわたし
まわる、まわる、まわり続ける誓い・・・


0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2018年07月>
日 月 火 水 木 金 土
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031