犬はとにかく鼻で知る。
人が物を認めるときにまず目を使うように、犬は鼻を使う。
相手が誰かを嗅ぎ分け、ここがどこかを嗅ぎ分け、いつも通りかを嗅ぎ分ける。
人が目隠しをされたら不安なように、犬も嗅げない状況はさぞ不安だろう。
以前の車は、ドアの内側に厚みが有って、しかも平たくなっていて、
それに布張りだった。
今度の車は、薄くて斜めで樹脂製だ。
だから、ウインドウから鼻先を出すために窓の縁に掛けた前足が、滑る。
爪が引っ掛かるように、薄手のカーペットのようなものを縁に接着してやろうとするが、
何やらエンボス加工された樹脂でできていて曲面なものだから、うまく着かない。
いまだにうまい方法が見つからない。
犬は、後部座席のウインドウから鼻先を出して外の様子を嗅ぎながら、
踏ん張ってはいるのだけれど、停止、発進、右左折の度によろけている。
それでも、しょっちゅう乗せているうちにコツはつかんできたようで、
お尻をシートの背もたれに付けて、前足をウインドウの溝の際に踏ん張って、
なんとか持ちこたえている。
それにしても、老犬にはしんどいことだろう。
私が車の運転を始めたころ、うちの車のダッシュボードには、
兄の写真が飾って有った。
父が作った木の枠に入れて立ててあった。
裏面にはボルトで重しがしてあった。
兄は自分の運転で、高速道路の分岐に突っ込む単独事故で死んだのだ。
しかし、普通に運転すると倒れる。
よその人がうちの車を運転すると、この写真立ては確実に倒れる。
発進でパタンと伏せて、右左折で左右に滑る。
父の運転では倒れない。
私も、写真が倒れないような運転を心がけた。
後年、運転をほめられたことがあった。
車に酔いやすい人だが、私の運転は上手で酔わない、と言う。
あの写真立てに鍛えられたのだろう、と思う。
今は、犬がよろけないような運転を心がけている。
※
友人Dの家までドライブ。
車を修理したので、快調。
それにしても、老犬同伴のため、日頃より慎重に運転をすると、
往復3時間あまりは、くたびれるものだ。
※
犬好きのDちゃん一家なのに、先ごろ最後の一頭が他界してしまった。
家に着いてみたら、一見して犬用と分かるベランダが有る。
ベランダに柵が有る。
柵にはちゃんと庭に通じる扉が有るし、屋根も有って風通しが良い。
ここんちの犬が愛されていたのが伝わってくる。
「居間にはコルクボードが貼ってあったんだけど、もう剥がしたんですよ。」
板の間は犬には歩きづらい。滑り止めのコルク床はたいへん良い。
剥がさないで、また飼えばいいのに。
飼わずにはいられないのに。
飼わないと、なんだか自分が自分でないような気がしちゃうよ?
ま、まずはちょいと旅行でもしたらいい。
※
Dちゃんのお父さんにもひととおり撫でてもらい、あ、犬の話ですよ、
竹林にタケノコ掘りに。
ちょうど先週雨が降ったので、また生えてきたところだ、ということで豊作。
わが犬ジーロも、タケノコをかじるのが大好き。
ためしに茹でてから、皮の元の柔らかく食べられる部分を与えてみたら、
口には入れたが出していた。
生で皮をかじることだけが好きならしい。
こだわりの味覚、相当のグルメ。あ、犬の話ですからね。
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