[あらすじ] 枯死してしまった珊瑚樹を、数本伐り倒した。
家の入口の脇なんかに柳が有ったらちょいと乙だな。
料亭みたいじゃない?
何やら妙な憧れが有った。
枝垂れる様子は美しい。
春に芽吹きとともに黄色い花房を付けるのも目にやわらかい。
でも伐る。
※
近所に有るものは、あまり植えなくていい、ということにした。
いつ頃だったか、そう思った。
近所で見られるなら、それで十分。自分が庭で手入れするまでもない。
※
柳の枝で籠を作ろうと、友人が言うので、一緒に近所の大きな柳の木の下から
落ちている枝を拾ってきた。
枝は、水に浸けておいて、しなやかにして、皮を剥いて細工する。
浸けておいて待っているうちに、友人の柳籠への思いは下火になってしまったようで、
柳の枝はいつまでも我が家の池に浮いていた。
ある日見てみたら、枝から根が出始めていた。
※
柳というのは無抵抗である。
枝がやたらにしなしなとするし、ついでに折れやすい。
川べりによく生える。
増水に備えた性質なのだ。
濁流に襲われたら、しなしなと受け流し、枝なんか折れてしまっても
それで幹が残ればいい、という考えだ。
そして、折れた枝は流れついた先で根を張り、また一本の木となる。
※
ちょうど柳を植えてみたかったのだ、と根の出た枝を土に挿した。
すくすく伸びた。
2年で立派な柳の木の形になった。
4年も経ったら、「切らないとまずいぞ」と思うようになった。
今、何年経ったか忘れたが、道の電線と、自宅の1階と2階に引き込む電線に
枝が掛かっている。
これで風に煽られたら、柳の枝もろとも、家の電線も引き切られてしまいかねない。
※
梯子を掛けて登り、枝にまたがって更に登る。
柳の枝は、書いたように、折れやすい。
何年か経った、太い枝でないと、足を置き体重を掛けるのに耐えない。
柳の木肌は、滑りやすい。
薄い皮があるが、簡単に剥ける。
中の緑はよく滑る。
足を置くと、皮が滑って剥ける感じだ。
注意するのは足元だけではない。
手でつかまっている枝も、折れやすかったり滑りやすかったりする。
ざらざらした木に登るよりも、力が要る。緊張する。疲れる。
※
書いたように、ほいほい伸びる木だし、ご存じの通りしなしなした木なので、
木質はやわらかい。
いざ鋸で切るという作業は、楽だ。すいすい切れる。
滑り落ちないようにしっかりつかまって、切る手にはあまり力は要らない、というわけだ。
やわらかいが、水分も多い感じで、枝は重い。
※
4mくらい有るメインの枝を2本くらい切った。
切った枝を木の下に落とすのも、コツが有る。
狙った場所へ狙った方向に落とすと、後の作業が楽だ。
下の枝にうまくバウンドさせて、静かに落とす。
長くて重い枝に鋸を入れると、自分の重さで折れていく。
それを利用して折る。
私一人の力では重くて取り回せないような大枝も、
下の枝にうまく引っ掛かるようにしておく。
下の枝を先に切ってしまうと、大枝の重みのままに暴れるので、扱いがたいへんだ。
※
それにしても、5,6m程度の柳の手入れでこれだけたいへんなのだ。
先が思いやられる。
木を降りて、少し離れて眺めてみると、とてもさっぱりしている。
が、てっぺんの枝が一本、電線に掛かっている。
今は細い一本だが、あれが強く成長したり、周りに枝が増えたりしたら、
また電線が危ない。
あんまりちょいちょい登って切るのは負担だ。
この際、根元から伐り倒してしまおうか。
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