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2017年11月19日23:37

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『人生はシネマティック!』

 原題『Their Finest』の由来となっている原作小説の題名『Their Finest Hour And A Half』(我々はたまには最上級の1時間半の楽しい時間を提供したいものだ(文意))は映画中でも台詞として語られているが、チャーチル首相の有名なFinest Hour演説に由来している。パロっているのだ。

 娯楽作品としてカリカチュアライズされているのでピンと来にくいが、大英帝国史上最悪の存亡の危機であった1940年後半から翌年あたりの頃を舞台にした話である。首相の座についたばかりのウィンストン・チャーチルが対処しなければならなかったのは、'40年5月のダンケルクからの撤退作戦。この段階で合衆国は参戦していないどころか、欧州には不干渉との意見が国民には多かった(ここ、この作品に於いても重要なポイント)。イギリス自体、ヒトラーとは全面対決せずに和睦せよとの和平派も多かった。ヒトラーの方もこの時点ではイギリスとの訣別は避けたかった。早い段階からヒトラー、ナチズムの危険性に気付いていたチャーチルは、国論を戦争続行で纏めアメリカが参戦するように苦心することになる。

 これがこの作品の背景。
 いかに英国民に対し、戦意高揚を図りながらも厭戦ムードを作らないようにするか。
 いかにホワイトハウス、米議会、及び米国民から対独戦への協力を得られるようにするか。

 この映画の主人公たちはこうした思惑に振り回されつつ、1本の映画を作ろうとする。この時期、ロンドンはしばしば空襲に襲われていた。ひょんなことで脚本作りに関わることになったヒロインが住んでいた部屋のあるアパートも破壊され、老優のマネージャーは命を落とす。それどころか、被害は撮影所にも及び、そしてヒロインは得たばかりの大切なものを一瞬のうちになくす。気力を失うヒロイン。それでも、映画は作られねばならない。
 ビル・ナイ演じる老優(我儘でプライドが高い役者だったがヒロインによって少しずつ変わっていく)がヒロインに語りかける。「わしたちに仕事が回ってくるのは所詮若い役者やスタッフが戦争に行っているからだ。そんなことは分かっている。でも、そうならばなおのこと、与えられたチャンスを生かさなければ死んでしまった人間に申し訳がたたんじゃないか」…

 これは、フィクションであるが戦時秘話であり、映画作りの映画であり、映画論の映画でもある。ハリウッドへの皮肉も忘れてはいない。そして、映画とはかくあるべしという映画への愛に満ちた作品である。

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