監督の白石和彌の名は脚本執筆者としてはクレジットされていないが、浅野妙子によると、シナリオに白石の手がかなり入っている。若松孝二の弟子筋の白石とテレビ畑の浅野との組み合わせと聞いて、観る前は違和感が拭えなかったが、なるほどこれが「ちょうどいい塩梅」というところか。
ひとを殺してはいけないだとかバチが当たるとか、そういうコモンセンスというか原罪というかそういうものに捕らわれないのがイヤミスの世界なんだと思っている(偏見あり)。男無しでは生きていけない女と、そんな女を食い物にして生きる男たち。彼らをクズと云うのは早いけど、誰もが少なからず脆さと弱さ、ずるさを抱えて生きているのではなかろうか。
男癖の悪い若い女に魅入られて愚かにもひたすら尽くす中年男、という構図が鮮やかに逆転していく。人間に生きる意味があるというのなら、阿部サダヲが演じる愚かというにはあまりにも純粋すぎる男の生き様、死に様に、意味がないなどとは誰にも言えない。
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