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2017年09月09日09:47

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マスターができるまで 久々 1400

『あ』
と思った俺は受話器をフックにかけ、一目散に我が家に向かった。
リエとミドリが
『待って!』
『どしたん!』
と、おってきたが待ってはいられなかった。
カワタカとの約束がかかっている日曜であったからだ。
リエの言うように、美保子叔母が退院してくるのであれば、カワタカどころではなくなってしまう。
焦りも頂点を極めた俺は、暑さのせいばかりではなく、体のそこここからおかし気な汗が出始め、額の生え際からのヤツは、どんどん滴り落ち、目に入っていった。
目に入って汗は、視界をくもらせ、俺をつらくさせた。
我が家に帰ってみると仕事が早く終わったのか、珍しく一人だけで、父が応接間で、放心しつつもクスクス笑いながら
『あのバカ』
『アホじゃの』
と言いながらタバコを吸っていた。
俺が
『なぁなぁ』
と勢い込んで入っていくと父はにわかに生真面目な顔を作り
『なんなぁ
入ってくるんならノックくらいせいや』
と言った。
俺はそんな父を無視して
『今度の日曜が退院する日じゃったっけ、タジマの叔母ちゃんの、、、』
と言うと父はぎょっとし、俺の顔をじっと見、
『おめぇ、泣きょんか』
と言った。
汗が目に入った俺は、目を赤くしており、一見、泣いているように見えたのだ。
俺は
『泣いてなんかねいよ』
と言いつつ、
『汗が目に入っただけじゃ』
と正直に言った。
すると父は
『かっこつけなや!』
と言い、
『おめいがそこまで美保子を心配してやるとはなぁ。
なるほど、、
おめいもえええとこあるがな』
とガテンし、
『じつはの、、
今電話があったんじゃけんど、予後が芳しくねいようなんじゃ』
と思いがけない事を言い始めた。
俺は
『え!』
と驚き、
『予後が芳しくねいって、、どういう意味
まさか、、、死んだん?
とうとう、、、』
ときいた。
父は
『アホ、そのくらいでは死にはせん』
と死亡を否定し
『よう、太っとろうが
あいつ、、』
と思いもかけないほうからせめてきた。
俺は美保子叔母の体型を想像し
『まぁな』
と言うと、父は
『あれだけ言うとったのに病院食だけではモノ足らんいうて、婆さんが差し入れした寿司や鉄板焼きを食うて目方を増やして、そのせいで、傷の縫い目が張り裂けそうなんじゃと』
と思いもかけない事を言い始めた。
俺は
『へ?』
と言うと
『張り裂けそうな?
傷口が?
太り過ぎて?』
と言った。
父は
『そがに、いちいち確認せんでもええがな』
と言いつつも
『困ったヤツじゃ。
いまさっき婆さんから電話があって知ったんじゃけど、そういうわけで、退院は日延べじゃ。
涼しゅうなてからじゃの、退院は、、
でもその頃になると天高く馬肥える秋じゃけんの、肥えな言うのも難しいで、、
馬は肥えてもアイツは肥えたらおえん秋じゃの、、』
と言い、
『婆さんも自業自得じゃと思っとんか神妙な声出しとったわぃ』
と言った。
俺はおかしくなって来て
『あのダルマのような叔母、、
食い意地がはっとるけん、傷口がバリ避けそうなんか』
と言い、
『ダルマの皮がまっ二つに裂けたんか』
と笑った。
今度は本当の涙がでた。
父は
『おえ』
と俺をたしなめ
『そこまで笑わんでも、、
ちいとは同情してやれや』
と言い、
『そもそもおめぇ
婆さんからの電話、なんで知っとったんなら。
誰からきいたんなら。
早すぎようが?』
と追求し始め、
『おめぇ、、
ホンマに泣いとったんか?
嘘泣きじゃねんか』
と風向きをかえて来た。

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