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日記一覧

俺が発した風のような声が向こうまで届いたせいか、一瞬にして、ひそひそ声は中断された。『ダレかおるんか』やがて、そんな声がおこると、暫くして、ダレかが俺の方にやってくる気配がした。見つかってはならずと思った俺はとっさに茂みの影に身をひそめた。

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ナツコの激しいもの言いに飲まれたようになった母は『ナッちゃん、、』と言うのが精一杯だった。これがわが子の俺であったなら『えらそうな事言いなさんな!』と叱り、頭の一つでもはつるところなのだろうが、他人である以上、まさか、頬を叩くわけにも行かず

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それから暫くは何事もなく穏やかに過ぎて行った。ノグチにあう事もなかったので、ノグチが俺をわざと無視した事も、いつしか記憶からうすれはじめていた。問題が起こったのはその数日後の事だった。仕事を終えるか終えないかと言った時間に、二階からバタバタ

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ヤマナカ君は一瞬、ノグチの方に顔を向け、その後あらためて、俺の方を見ると、『ヨシヒロちゃんじゃが、どしたん、こんなとこで』と言った。『ヤマナカ君こそどしたん。』俺がそう聞くと、ヤマナカ君はカウンター内のチーちゃんやノグチの顔を見て、『ここ、

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つま先立ちの郷ひろみ
2016年03月19日01:09

がんばっている郷ひろみ特集のテレビを見た。アメリカ仕込みのテープを絶えず携え、ボイストレーニングに余念がなく、筋トレでメリハリのある腹筋を作るべくトレーナーに鍛えてもらっている郷ひろみ。郷ひろみは『長く続けて行くにはこうするしかない』と言う

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マナブはカウンターの気配を気にしつつもナツコの話しに耳を傾け、『うん、うん』と頷く聞き役に徹底していた。中途半端に、ナツコのはなしの腰をおるようなマネはしなかった。自分で自分のはなしに興奮して来るのか、ときおり言葉をつまらせるナツコだったが

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やがて仕事を終えたマナブが普段着になって、やって来た。マナブは席につくやいなや『随分、早いね。時間厳守にしてもらわんとボクが困る』と言った。ナツコは『ふん』と笑い、『随分、オカザキくん、気取っとったね、いつもあんな声出して仕事しとん?』と言

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マナブが運んで来たバナナジュースにストローをさす間もなくナツコは『それでハルキって刑事さんは聞くだけ聞いて、帰って行ったん?』と聞いて来た。白い制服姿のマナブは一瞬、いやな顔をしたが、すぐさま従業員の顔に戻り、『ごゆっくり』というと奥へ下が

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父達はその後もヒソヒソと密談をこらしていた。『警察は、一応、連続放火と単独放火の両方で捜査を平行して執り行ってます』とか『八木のおじさんの焼け跡から出て来たものに不審なモノがあったんです』などと語るハルキの声は壁越しに、どこか不気味だった。

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夕方になって仕事を終えた父が、診療所である二階から降りてくると、待ちかねていたようにハルキが『にいさん!』と勢いづいて言った。それまでのハルキは、母や俺を相手に、連島の、ハルキにとっては父母になり、母にとってはオジ叔母にあたるそんな人達の近

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ナツコ達とシノハラさんを訪問して数日後の土曜日の事だった。テレビで「吉本」を見た後だったから昼過ぎか夕方前だったと思う。自室でマンガを書いている俺の耳に、いきなり、『こんにちわ。姉さん、いる?』と言う若い男性の声が玄関のあたりから聞こえて来

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その後、俺達は奥の居間に通され、しばし、茶菓のもてなしを受けた。奥さんに気を使ってか、父も母も当たり障りないはなしばかりに終始していたが、ナツコだけは、そんな空気に不満そうだった。おそらく、しょっぱな、シノハラさんがもらした『警察』という言

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奥さんが引っ込んでしまったので、シノハラさんは俺達を、この前とおなじ、窯場に招じ入れてくれた。『窯場』と聞いた瞬間、またもや、動悸がおこるのではないかと俺は不安を感じたが、この日の窯場は燃えたぎる火もなく寒々としており、熱の荒々しさより、む

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