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2017年07月09日17:02

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「にっぽんアニメーションことはじめ」展

『にっぽんアニメーションことはじめ〜「動く漫画」のパイオニアたち〜』展。
京都国際マンガミュージアムにて開催。会場は2階ギャラリー4。
マンガミュージアムの前身である小学校の教室をほぼそのまま使った会場。中央に上映スペースを設け、四方を取り囲む形に展示物を配置。それほど広い会場ではないが、内容はぎっしり。
今回の展示の一番の特徴は、今まで幸内純一、北山清太郎、下川凹天の3人とされて来た日本のアニメーションの創始者に、幸内の共同制作者であった前川千帆(せんぱん)を加え「4人のパイオニア」として捉え直したこと。
展示は3つのSECTIONに分かれ、順に「SECTION1 4人のパイオニア」「SECTION2 にっぽんアニメーションことはじめ」「SECTION3 漫画からアニメーション、アニメーションから漫画へ」となり、年表を追う形でパネル解説、当時の雑誌等の資料の提示がされる。

「SECTION1 4人のパイオニア」では、下川凹天、北山清太郎、幸内純一、前川千帆をそれぞれ略歴、写真、作品と功績について当時の雑誌等の資料から紹介。
下川、北山、幸内の3人については既に知られているので、この日記では目新しい研究成果についてピックアップしようと思う。

下川凹天については「凹天」の名の読み方について言及。1911年、20歳の時のスケッチに縦書きで「王天」と読めるサインがあることを紹介。当初は王天と号したが「師・北沢楽天に怠け者と戒められ大いに凹んで凹天と改名した」との「日本の劇画−歴史と風俗」(1967年)の記述から、「おうてん」後に「へこてん」であると読み解く。下川の「芋川椋三」の漫画について当時の雑誌からの紹介も数点。
こんな風に、今回の展示は往年の事物について先入観に捕らわれることなく資料を元に慎重に考察を進めている。学術的な展示だ。

今回の展示の目玉とも言える幸内純一の協力者・前川千帆について。
前川については幸内自身が「原作デザイン共に前川君との合作であったから前二者(主催者注・下川、北山のこと)よりも優秀な効果を収め得た」と書き残しているそうだ。
前川は幸内の『ちょんぎれ蛇』にも原作顧問として関わっているとのこと。
1888年10月5日生−1960年11月17日没。京都府下京区生まれ。本名・石川重三郎。
1912年上京。「東京パック」を経て1915年京城日報に入社、朝鮮へ渡る。
1917年帰国、幸内とアニメーション制作を始める(29歳)。
展示されている「パック誌」という漫画は動きのある達者な筆使いが見て取れる。

「SECTION2 にっぽんアニメーションことはじめ」
当時の記録や雑誌資料等から日本で最初に公開されたアニメーション作品は何だったか、またその公開日はいつかを探るもの。
解説に曰く「当時の記録はあまりに断片的で、人の記憶は当事者であっても時間と共に不確かになってゆく。現在言われている「定説」は果たして正しいといえるでしょうか。現在判明している断片的な情報や証言を年表のように網羅的に提示することで、100年前に何があったかを紐解きます。あなた自身で繋ぎ合わせ考察してみてください。」とのこと。
さながら考古学の探究者である。
赤=下川凹天&天活(映画会社)関係資料
青=北山清太郎&日活関係資料
緑=幸内・前川&小林商会関係資料
と三色に色分けされたパネルを年表に提示。互いに関連し合うその内容を照らし合わせながら歴史を探る。
パネルは1916年10月の下川凹天に関する記述に始まり1920年の映画検閲リストにある5本の線画(アニメーション)から1921年の北山映画制作所への言及と続く。
既にある資料だけでなく、この展示の準備段階において新たに発掘発見された最新の資料までが惜しみなく公開され、閲覧に興奮を禁じ得ない。
現時点では日本最初のアニメーションは1917年1月頃に公開された下川凹天の『凸坊新画帖 芋助猪狩の巻』が有力とされるが、研究は継続中である。
こうしている間にも新しい資料が発掘され歴史が塗り替わっていくやも知れず、また新たなフィルムが何処から発見されるやも知れぬ訳で、にっぽんアニメーション100年を数える今、我々は非常にスリリングな場にあると言える。
展示はこの後に川崎市民ミュージアムでの開催が予定されているので、是非直接その目でお確かめ頂くことを私も強くお薦めする。

「SECTION3 漫画からアニメーションへ、アニメーションから漫画へ」
戦前期の漫画とアニメーションの興隆と交流の流れを追い、それがどのように実を結んだのかを考察する展示。漫画誌等の展示も多数。
おもちゃ映画ミュージアムの協力による玩具映写機と玩具フィルムの展示、復元されたフィルムの映写もある。
玩具映画の上映プログラムは「正ちゃんの動物地獄」「芝居騒動」「タンクタンクロ突撃隊」「唯野凡児 東京見物」をエンドレスで。
「芝居騒動」には、のらくろ中尉とミッキーマウスが出演。タンクローではない「タンクタンクロ」は非常によく動いて面白い。いずれも何処の誰が作ったかも分からない、歴史に埋もれた作品だが、日本人の起用さや根気強さが生かされ見応えがある。いつか歴史の発掘がされ、彼らに光が当たる日が来るだろうか。
反対側の壁に沿っては海外作品を元にした玩具映画の展示と上映。「マン画 化猫騒ぎ」(制作者Disney)「ミッキー漫画 クリスマスの巻」(同)「ミッキーの二丁拳銃」(同)「スピード違反」(制作者Fleischer)。これまた粒揃いでべらぼうに面白い。手塚治虫の回想にもあるように、裕福な家庭ではこういうものを家族で楽しんでいた訳だ。

展示は以上。
中央の上映スペースでは昨日の「なまくら刀」公開100周年記念祭でも上映された、下川凹天の『芋川椋三 猪狩の巻』のデジタル再現版、北山清太郎の『太郎の兵隊 潜航艇の巻』デジタル再現版、現代作家たちによる『芋川椋三トリビュートアニメーション』等をエンドレスに上映。外の展示を読んで回ると大変疲れるので、ここで椅子に座って見られるのが有難い。

と、実に得るもの多く貴重な展示なのだが、惜しむらくは何の配布物も無いこと。
図録と贅沢は言わないので、せめて川崎で開催の折は展示物一覧や解説の小冊子なりと欲しいもの。切にご検討をお願い致します。

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