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2017年06月01日16:54

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チャック・ベリーの自動車ソング


 チャック・ベリーといえば、自動車ソングだ。
 小林旭は「自動車ショー歌」1曲だが、チャックは、最初のヒット曲「メイベリーン」 (1955) を皮切りに、ディーラーに「前金なし」でキャディラックを売りつけられる「ノー・マネー・ダウン」や、「ユー・キャント・キャッチ・ミー (つかまらないよ)」、「ジャガーとサンダーバード」、オチつきの「ノー・パティキュラー・プレイス・トゥ・ゴー」、自作じゃないけど「ルート66」と、けっこうたくさん吹きこんでいる。
 実生活でも、車がお好きだったみたいだ。 次号のBSR誌用に納品した連載記事草稿 (いつもの2倍の長さの力作だよん) で、使わなかったメモから、いくつかチャックをめぐる車がらみのネタを紹介したい。

 その1) ハイスクールを中退したチャックは家出して、友だち二人と、1937年型のオールズモビルに乗って、生地のセントルイスから西海岸を目指した。 
 人種差別の厳しい現実を味わいながら (ファストフードの全国チェーン店で食べ物をテイクアウトしようとしたら、黒人は裏に回ってキッチンの窓から受け取りなといわれたとか)、カンサス・シティーまでたどり着いたところで、所持金が尽きた。
 で、チャックが持っていた22口径のピストルを振り回して、強盗をした。 (自伝では、若い者にありがちなちょっとした冗談だといっているけど、5日のうちに3度もやらかしたわけなので、とうてい洒落じゃすまない。)
 これでは西海岸行きは無理だと、セントルイスへ帰ろうとしたのだが、途中でかれらの車が故障した。 ヒッチハイクのふりをして往来の車を止め、ピストルを突きつきつけて車を奪ったのだが、すぐに足がつき、ハイウェイパトロールに捕まった。
 裁判にかけられ (本人の言では21分で判決が下されたという)、懲役10年の刑に。 記録によれば、チャックの父親が雇った弁護士は、ミズーリの田舎で黒人を弁護するのは無謀と思ってかほとんど何も弁論をせず、“罪を認め反省している”未成年者への破格の厳しい判決になった。
 そのあとチャックは、18から21 (成人年齢) までの3年間を、州の少年院で過ごした。

 その2) チャックは、ヒット曲を連発してスターになり、ニューヨークへ。 もちろん、車好きだから長駆自分で運転して出向いたのだが、トンネル内で追い越しをかけようとして (当然違法)、パトロール警官に制止された。
  「免許証を」ということになるわけだが、その人種欄 (そんなのあったんだね、いまでもある?) には、「インディアン」と記載されていた。 しかも、車のナンバープレートの、前のほうはカリフォルニアナンバー、後ろがミズーリ (彼の住所のセントルイスがある州) のナンバーだった。
 なんか、面倒くさそうなやつだと思ったのか、警官は、「ちゃんとナンバープレートを直しておけよ」といって、“行ってよし”のサインを出したという。
 チャックは、早くに“黒人のプライド”を潜ませた「ブラウン・アイド・ハンサム・マン」を歌った人だが、と同時に、この国では黒人は受け入れられないと痛感してもいた。
 で、アルバムジャケットの写真を白く見えるように調整したり、インディアンを自称したりしたのだろうと、伝記作家のペグは推測している。

 その3) 1954年の学校での人種統合命令に端を発するテキサス、テネシー等南部各地の暴動以来、黒人に対して、南部の白人は険しい感情を抱いていた。
 そこへ、黒いスターのチャックが旅興行に来たのだから、平穏無事というわけにはいかない。
 以下は、当時のベリーのバンドのサックス奏者 (ジョニー・フロイド・スミス) の回想:
  「[アーカンソー州] リトルロックのとあるクラブで、演奏してたんだ。 ショーをするために、出かけて行ってね。
 おれたちがクラブを出たとき、キャディラック――チャックは、後ろにスペアタイヤのついた真っ赤なキャディラックに乗っていた。 素晴らしい車だったよ。 それに、おれたちバンドのメンバーが乗りこんで、そのあとチャックが店から出てきた。 彼は、何が起こっているか分かってたんだと思うよ。 おれたちが乗りこんだら、やつらは、レンガだの壜だのを投げつけて、車の窓をこわそうとした。」
 チャックが、ショーのあとで、若い白人の女性を抱擁したのを、白人観客のうちのだれかが見とがめた。 急いで人を集めて、襲いかかってきたのだ。 
 「チャックは、走ってキャディラックに乗りこみ、急発進させた。 ブオーン!
 そうやって逃げ出したわけだけど、おれは怖くて、死にそうだったよ。 
 ほんとに、殺されると思った。」  (Bruce Pegg, Brown Eyed Handsome Man, 2002, p.68)

 その経験から、チャックが「ユー・キャント・キャッチ・ミー」の想を得た、というのはうそ。 アラン・フリードの映画 (いちばん上の画像参照) のために書かれたあの曲のほうが、たぶんこの事件より先だから。

 Chuck Berry Performs "You Can't Catch Me" in 1956's "Rock, Rock, Rock!":
 https://www.youtube.com/watch?v=9jKrHzps0XM

 John Lennon - You Can't Catch Me:
 https://www.youtube.com/watch?v=B8g70Pzfcq0

 the rolling stones - you can't catch me:
 https://www.youtube.com/watch?v=Qj4Kc-Fc9iM
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