ゆえあって、”ブルーズの女帝”、ベシー・スミスについて調べている。
6尺豊かな大男、ならぬ、6フィート超えの大女。
どっちが大きいんだろうと、いま調べたら、前者が曲尺 (かねじゃく) で181.8cm、後者が182.88cmだから、6フィートのほうがちょっと高いのか。
でも、まあ、ほぼ同じなのね、知らなかった。
これが、大きいだけでない、堂々の女丈夫。
彼女のテント巡業のテントを倒そうと、ペグ (杭) を抜きにかかっていたKKK (クー・クラックス・クラン) のシーツ被り野郎10人を、こぶしを振り回しながら睨みつけただけで、追っ払ったとかさ。
上流のパーティに呼ばれて、しこたま飲んで (ウィスキーしか飲まなかった)、お付きの2人に両手をとられて帰ろうとしているとき (お付きは、これ以上飲ませると危険だと察知したのだ)、その家の主の妻が「あら、さよならのキスもなさらずにお帰りになるの」と近づいてきたので、「クソみたいなことぬかすな!」とその場にノックアウトして、文句あるかとファイティングポーズを取ったとか。
ベシーは色の黒い男が好きで、自称探偵の、ジャック・ジーという男と結婚した。
当時のベシーを知るフィラデルフィアの劇場関係者の話。
<ジャックが、この話をしてくれたんだけどさ。 ベシーはいつも、肉切り包丁を持ってベッドに入って、やっこさんにこういったものだって。 「あんたが眠りかけたら、殺しちゃうよ」って。 (笑い)
ジャックは、自分の45口径ピストルを片手に寝そべりながら、いい返したって。 「おまえが刺そうとしたら、脳みそをぶっとばしてやるぞ」って。 ベシーはいった、「あんたが眠りはじめて、いびきをかいたら、殺しちゃうよ。 包丁であんたを突き刺すからね。」
私はたずねたよ、「じゃあ、ジャック、あんた、どうやって眠るんだい。」
彼がいうには、「ああ、あいつは、ほんとにそんなことしたりはしないさ。」
ベシーは6フィート近くあって、巨体で、強くて、とくに腕力がたいしたもんだったんだ。 ジャック・ジーの襟首を片手でつかんで、楽々と宙づりにできそうだった。 ジャック・ジーが、とくに小男ってわけじゃなかったけどね。 ああ、ベシー、ほんとに素敵な人だったよ。>
――――ビル・クロウの 『ジャズ逸話集・第二版』 (2005) より
ジャック・ジーは、世間的にはろくでもないやつだったけど、ベシーは、じつは彼を可愛がった。
彼ともめた自分のレコーディングのプロデューサーを、更迭させたりした。
いろいろあって別れたあと、人目をしのんで涙にくれたという。
なんか似たパタンのマンガがあったな、と考えて思い至ったのが、木村紺の 『巨娘』。
主人公の巨娘ジョーは、彼氏の美樹 (よしき) をもっと猫可愛がりするけど、腕っぷしの強さと、仕事が滅茶苦茶できること、まわりに女性のスタッフを抱えているところは、まったく同じ。
ベシーは、ヴィクトリア朝的価値観がまだ残っていた1920〜30年代に天下をとった、実在の人物なのだから、しみじみすごいなと思うけどね。
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