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2017年01月06日23:44

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『看聞日記』貧乏公家を揶揄した狂言

『看聞日記』応永三十一年(一四二四)年三月十一日条。『看聞日記』のなかで、ある意味、有名な箇所の一つであろう。

伏見宮貞成の領地伏見荘、その鎮守御香宮で、公家(くげ)が経済的に困窮していることを面白おかしく狂言で演じられた。これは、貞成としては領主のプライドを痛く傷つけられたのであろう。

比叡山でも狂言で鎮守社の使者である猿が馬鹿にされたり、仁和寺でも当時の門主がクサされたりしている。

中世の能役者、そしてそれを応援する庶民が、いかに領主の権威を軽んじていたのかがよくわかる。

【】書きは、私が適宜加えた見出し。※は補注。

なお記事冒頭に出てくる稚児(ちご)とは男児である。畠山家は守護大名家。

【畠山持国最愛の稚児】
(応永三十一年年三月)十一日、晴。御香宮猿楽も昨日と同様だ。畠山持国少弼が猿楽見物に来たそうだ。猿楽の役者の中に稚児がいる。この稚児を畠山少弼がもっとも愛しているという。猿楽が終わって畠山少弼は稚児と一緒に帰り、松原で酒盛りをしたそうだ。この酒盛りは畠山の家臣である三木善理が取り計らったようだ。

【公家人疲労のことを狂言で演じる】
さてこの御香宮猿楽の間狂言で、公家が経済的に困窮してくたびれている様子をいろいろと真似して演じられたそうだ。このことはよろしくないので、田向前参議が小川禅啓を通して楽頭の矢田を譴責した。

【伏見荘は皇居なり】
この伏見荘は、皇族が住んでいる場所(※)である。このように公家が居住している場所で、公家が困窮している様子を種々、面白おかしく演じるというのは、古くからの仕来りを弁えず、大変失礼なことである。それで今後のために譴責させたのだ。
※「皇族が住んでいる場所」…原文には「皇居」とある。

【比叡山で猿を揶揄した役者が刃傷された】
このことは別の慣例にもある。比叡山延暦寺で猿楽の役者が猿(※)の物真似を面白おかしく演じたことがあった。それで延暦寺の僧兵が、この猿楽の役者を斬り付けて怪我をさせたそうだ。
※「猿」…猿は比叡山の鎮守日吉大社の使者である。

【仁和寺御室門跡を揶揄した役者も処罰された】
また仁和寺でも、猿楽狂言で聖道(※)法師のことを面白おかしく演じたことがあった。その猿楽の役者も、仁和寺御室御所から処罰されたそうだ。
※聖道(しょうどう)…仁和寺御室第十七世承道法親王(一四〇八〜一四五三)のことであろう。後小松上皇の養子で、木寺宮邦恒王の王子、この当時の御室門跡の当主である。承道にどのような揶揄される事績があったのかは、未詳。「聖道(承道)法師」とは、狂言役者が実際に用いた不敬な呼称であろう。

このように皆、狂言を演じる場所について考慮すべきなのである。このような仕来りを弁えないというのは、けしからぬことだ。

御香宮楽頭を追放する命令を発した。しかし楽頭はまったく知らないことでしたといろいろ陳謝している。よろしくない事である。
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