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2016年10月30日16:07

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【ブックレビュー】反オカルト論

反オカルト論
高橋昌一郎
光文社新書


 パワースポットとかパワーストーンとか、一時の流行なのかと思いましたら、意外と息が長いみたいですね。テレビではスピリチュアリズムを売り物にする芸人が姿を消したそうです。私は観たことがありませんが(笑)。広義のスピリチュアリズムではこれらも含むようですが、狭義では死者の霊魂の存在を信じ、それらと交信できるという思想等の事だそうですね。


 本書は、フォックス姉妹やミナ・クランドンといった有名な霊媒師と、インチキを明かす事に力を注いだ奇術師のハリー・フーディーニ、まんまと騙され続けたコナン・ドイルらのエピソードから始まり、古典的なスピリチュアルにまつわる事件を紹介するだけでなく、STAP細胞や考古学等の科学界の捏造事件、占いやおみくじ等の宗教的な分野まで話が広がります。


・・・・・
助手 それにしても、なぜスピリチュアリズムは大流行したのでしょうか?
教授 やはり戦争の影響が大きいだろう。十六世紀以降の犠牲者数を見ると、ギロチン処刑が大量に行われたフランス革命からナポレオン戦争に至る死者すべてを合わせても四百八十万人だったのに対して、第一次大戦では二千六百万人、第二次大戦ではその倍の五千三百万人以上と桁違いに跳ね上がってしまった。
 人々は、一瞬の爆撃で大切な家族を失い、しかもその大多数は臨終に立ち会うこともできなかった。せめて一言でいいから、もう一度死者と言葉を交わしたいと願った人々の数は、計り知れないだろう。
助手 そこで「死者の霊と交流できる」という「霊媒師」が登場するわけですね。
教授 だから、この問題は、一種の社会現象として捉え直すべきかもしれない。(後略)
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 こんなふうに、教授と助手の対話で進められ、各章の最後に、解説と「これまでに誰か、あるいは誇大宣伝や虚偽広告に騙された経験はあるだろうか。(以下略)」といった課題で、読者も一緒に考えたり調べたりという構成となっています。解説では、例えば、


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 たとえば、熱力学の第二法則を発見し、古典物理学のあらゆる分野に六百以上の論文を書いた物理学者ウィリアム・トムソン(爵位名「ケルビィン卿」としても知られる)は、十九世紀末に地球各地の地質を綿密に調査して、球体の冷却速度の法則から地球の年齢を四億年未満と推定した。同時に彼は、太陽の熱が重力の収縮によって生じる速度を計算したところ、その年齢も五億年未満という結果だった。
 つまりトムソンは、地球と太陽という二つの異なる対象に、「冷却速度」と「収縮速度」という二つの異なる物理法則を適用したところ、どちらも四〜五億年という結果だったため、「太陽系の年齢はどう考えても五億年未満」だと「自身たっぷり」に断定したわけである。
(中略)
 ところがトムソンは、本来は複合的要因から導かなければならない結論を、たった二つの法則から(しかもその推定値が偶然近かったため)断定してしまった。これこそが「一流知識人」であればあるほど陥りやすい罠であり、要するにトムソンは、自分の持つ知識だけから結論を導くという「過信」に陥ってしまったわけである。しかも、いったん信じ込むと、むしろ知識人の方が自分の知性を総動員して自己の「妄信」を弁護しようとするため、さらに自分が間違っていることを自覚し難くなる。
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 という専門家が陥りやすい誤りを指摘しています。現在の日本でも、学者等で、様々な分野に偉そうに口出ししては恥をかいている人が何人もいるみたいですね(笑)。


 STAP細胞事件については、小保方氏だけでなく、若山氏や笹井氏など関係者に対しても非常に厳しく批判しています。特に若山氏に対しては、事件後の研究での活躍を紹介した後に、


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 要するに、若山氏は科学界に受け入れられれば一般社会に背を向けてもよい、逆に小保方氏は一般社会に受け入れられれば科学界に背を向けてもよいという「生き方」を選択したように映る。もちろん彼らの「生き方」は個人の自由だろうが、彼らはどちらも「研究不正事件としてのSTAP騒動」に正面から立ち向かわず、社会に対して真摯な説明責任を果たしているとは思えない。(以下略)
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 と、手厳しいです。


 他にも、愛知県警が公表した「星座から見た交通死亡事故の特徴」を始めとする各県警のオカルト、完全な捏造だった「江戸しぐさ」の流行、「未来医療研究会」や「幸福の科学」など、幅広く切っていて楽しめました(笑)。

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