mixiユーザー(id:29675278)

2016年10月02日18:12

399 view

【ブックレビュー】フランス革命の省察

フランス革命の省察
エドマンド・バーク著
佐藤健志編訳
PHP研究所


 2010年から始まった、いわゆる「アラブの春」は、当初から楽観的な見方が少なかった通り、混乱を招いただけに終わりそうです。むしろ世界の不安定さを増大させたと言っても良いでしょう。独裁政権をクーデターで打倒したところで、すんなりと民主主義政権に移行するわけがありません。


 本書は、フランス革命開始からまだ1年の時点(長く見ても3年)に、イギリスの政治家(哲学者・美学者)である著者がフランス革命を批判し、以降の混乱と惨状を予言した書として知られています。その批判スタンスから、いわゆる保守思想の聖典ともされています。元々はパリ在住のフランス国民議会メンバーからフランス革命への激励を寄せて欲しいという要請に対しての、罵詈雑言に満ちた手紙(笑)をベースにしていますので、編訳者が読みやすく構成しているとのことです。イギリスでの発売当時は過激な内容と一部の事実誤認のために批判が大きかったそうですが、後世に評価を高めたというのも珍しいケースだと思います。
 本書を現代日本で出版する意義については、編訳者がプロローグでこのように述べています。


・・・・・
 「物事を抜本的に変えてゆかねばならない」という思いと、「物事を抜本的に変えようとしてもうまくいかない」という思いに引き裂かれ、みずからの立ち位置を決めかねている―それが二十一世紀におけるわれわれの実情ではないだろうか。「構造改革」にたいする批判が高まる一方で、新たな抜本的改革として「政権交代」がもてはやされ、果てはそれにも失望が深まるという、近年の日本に見られる風潮も、かかるジレンマの表れと解しうる。
 けれども、「改革への不満を解消するため、さらなる改革に走る」というのは、いかんせん堂々めぐりにすぎず、悪くすれば「どんどん収拾のつかなくなってゆく事態に何とか対処しようとトンデモ政策を乱発する」ことにもなりかねまい。そんな状況のもとで、社会をできるだけ望ましい状態に保つにはどうすべきか。(後略)
・・・・・


 本書の発売が2011年3月ですから、アベノミクスを始めとする現政権の失政を編訳者が予言しているかのようですね(笑)。


 本書の最もクリティカルな予言は以下の通りです。

・・・・・
 共和制を築き上げる目下の試みが失敗すれば、自由を保障する基盤も崩れ去る。この国で王政が復古するようなことがあれば、史上かつてない独裁政権の誕生となるだろう。新たな王となる人がよほど思慮深く、みずから対策を講じるのなら別だが、そんな可能性をあてにするのはバクチもいいところと言える。
・・・・・

 ご存じの通り、フランス革命は、王や王妃の首を落として民主主義政権が誕生、というわけにはいかずに、恐怖政治→死刑→腐敗→クーデター、と、血で血を洗う混乱へと突入しました。その時には著者はすでに他界していましたが、あの世でドヤ顔をしていたのか、忠告を受け入れられずに残念な思いをしていたのかは分かりません。


 保守思想という点では、以下の文が理解しやすいでしょう。

・・・・・
 過去の世代から自由を受け継いだとする姿勢は、われわれの行動におのずから節度と尊厳をもたらす。地位であれ権利であれ、自分一代で獲得した者は、ほとんどが成り上がりの傲慢さに取り憑かれて恥をさらすが、そんなみっともない真似をせずにすむわけだ。わが国の自由は、こうして高貴なものとなる。
 年長者や、名門の生まれの者を尊敬するのは、人間として自然な感情に違いない。われわれは国家の諸制度に敬意を払う際にも、同じ原則をあてはめる。長い歴史を持つ制度や、偉大な先祖がつくり上げた制度は重んじられるべし、である。
 自由や権利は、観念的な推論ではなく自然な本能を基盤とすべきではないか。小賢しい知恵よりも、胸に染み入る感情を踏まえるのがふさわしい。フランスのインチキなインテリどもがいかに頭をひねろうと、合理的で立派な自由を保持するうえで、これ以上に適切なシステムを考えつくはずはない。
・・・・・

 私たちの知っている「自由」や「合理的」と、ずいぶん違いますね(笑)。
 もちろん著者は現実の政治家であり、一部では自由主義者とされる場合もあるらしく、ゴリゴリの「変化否定主義者」ではありません。本書でも、必要であれば熟慮を重ねて、少しずつ改善するのが良いと何度も唱えています。変化については、現在でも重要な、それから民主主義政治のあり方としても大切な指摘をしています。

・・・・・
 複雑な体制は、いくつものこみいった目標を満たすように構築されており、したがって個々の目標を達成する度合いにおいては劣る。だが社会が複雑なものである以上、「多くの目標が不完全に、かつ途切れ途切れに達成される」ほうが、「いくつかの目標は完璧に達成されたが、そのせいで残りの目標は放りっぱなしになったか、むしろ前より後退した」というよりマシなのである。
・・・・・

 匿名掲示板やmixiのニュースへのつぶやきでよく見られる、「○○ならば□□してしまえ」「△△は※※で解決するのに政府は無能」といった、無責任な発言を平気で飛ばす人は、この一文を理解して欲しいですね。


 さて、保守思想といえば当時も今も宗教から離れる事はできないようで悲しい限りです。

・・・・・
 世の中、努力に見合った報酬が得られないことも多い。そんなときは、人生は束の間でしかなく、善良であれば死後に永遠の救いがもたらされることを思いだすべきだ。神の正義の絶対性の前には、現世の格差など些細なものにすぎまい。
 しかるに宗教の権威を否定する者は、人々から格差に耐えるためのよりどころを奪ってしまう。これでは働く意欲が起こるはずもない。勤勉の精神は、倹約の精神とともに忘れ去られるだろう。
 貧しい者やあわれな物は、結果的にますます追いつめられる。宗教を否定する者は、貧民の無慈悲な敵なのだ。(後略)
・・・・・

 宗教を治世に利用しています。ニーチェやマルクスが聞いたら激怒しそうですね(>_<)
 時代的な制約は仕方ないかなと思います。ただ、現代に先進国の都市部で生活していて、本気で信仰を持ち続ける、宗教的価値観を人生の振る舞いの基準にする、という行為は、重大な自己欺瞞を覚悟しなければならない、と、保守派の人達に理解して欲しいです。


 賞賛と批判の両方が多い一冊ですが、保守思想の源泉はどんな物なのか知り、現在の日本の保守とどこが共通していてどこが違うのか比較してみると面白いでしょう。また、フランスにおける自由が私たちの知る自由とかなり違っていて、どれだけ批判されても新聞の風刺漫画で兆発する事を止めない傲慢さや野放図さのルーツも感じ取れるかもしれません。


 それにしても、そろそろ無神論的保守思想が出てきてもいい頃だと思うのですが、まだまだ時間がかかりそうですかね(;_;)

0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2016年10月>
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031