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2016年06月25日07:32

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「ボール & チェイン」と「ワーム & テンダー・ラヴ」



 次号の 『ブルース&ソウル・レコーズ』 誌は、彼女の伝記映画絡みで、ジャニス・ジョプリンの特集。 で、私の対訳連載では、ジャニスがカヴァーしたビッグ・ママ・ソーントンの「Ball ’N ’Chain」を取り上げることにした。
 「Hound Dog」の大ヒットの神通力が薄らいできたので、その曲を吹き込んだレコード会社の所在地テキサス州ヒューストンを離れて、サンフランシスコ湾岸地域に移り、地元のクラブで演奏していたビッグ・ママことウィリー・メイ・ソーントンと、同じくテキサスの大学をドロップアウトして、ベイエリアでバンド活動に加わったジャニス。 
 ジャニスはビッグ・ママのステージを追いかけ、ついにはビッグ・ママの自作の「Ball ’N ’Chain」を頂戴して吹きこんでしまう (そしてそれが入ったアルバムがベストセラーになる)、・・・ というのはご存じの通りだが、この2人、地理的な移動経路以外にも、けっこう共通点があるようだ。
 ビッグ・ママは、アラバマの牧師の娘で、子どものときから教会で歌っていたが、ベシー・スミスやメンフィス・ミニーが好きで、14のときに家を飛び出して、ホット・ハーレム・レビューという旅回りの一座に身を投じた。 いっぽうジャニスは石油会社の技師の娘、つまりは中流の出ながら、両親は復興派で宗教熱心。 だからクワイアで歌った経験があって、しかし、それに抗うようにハイスクール時代には異端児扱いされていたグループと付き合って、ベシー・スミスやマ・レイニーやレッド・ベリーに聞きふけったという。 
 2人とも、伝統的な女性イメージに居心地の悪さを感じる人だったみたいで、家庭を築くとかいうのとは無縁。 そして、長い短いの違いはあるけど、結局、酒 (やドラッグ) で命を失った。

 ビッグ・ママの評伝は、長いことなかったけど、一昨年に1冊出たという。 で、さっそく注文した。 例によって、原稿を書くまでに読み通せるわけもなく、拾い読みに終わるだろうけど。
 その本にどう書いてあるのか、いま一番気になっているのが、「Ball ’N ’Chain」の著作権の話だ。 ビッグ・ママが書き、ベイエリアのマイナーレーベルに吹き込んだが、リリースされなかった。 彼女のステージの定番になって、そして、それを聞いたジャニスが吹きこみ、そのヒットのあとビッグ・ママも、地元のブルーズマニア向けのレーベルに再録音することになる。 
 ジャニスのヴァージョンのクレジットは、ビッグ・ママになってはいなかった。 当時の黒人アーティストによくあったパクリ問題だ。 ビッグ・ママは、ジャニスのヴァージョンの成功から1セントも得なかったと書いてある資料もあり、のちにジャニス側が一定額を支払ったと書いてある資料もある。 結局どうだったのかが、知りたいのだ。

 話が変わるが、「Warm & Tender Love」という、シンプルで美しいカントリーソウル・バラードがある。 パーシー・スレッジのヒット曲だが、ジョー・ヘイウッドという、とても優れたソウル歌手が、ハーレムのボビー・ロビンソンのレーベル (Enjoy) に録音したのがオリジナルだ。 「きみを、ぼくの暖かく優しい愛で、包みこませておくれ」というこの歌は、第一子である娘さんが生まれたときに、嬉しさと父親としてのプライドに舞い上がったジョーが、その気持ちを歌にしたものだという (古今亭志ん生が、息子が生まれたとき、寄席で「桃太郎」ばっかり演っていたのというのと同じパタン?)。
 しかし、いろいろともの入りだったからか、この歌の録音時に、ジョーはわずかの金額で、曲の著作権をボビーに譲り渡してしまう。 オリジナルのシングル盤はセールス的に鳴かず飛ばずだったが、2年後のスレッジのヴァージョンのヒットで、ジョーではなくボビーの懐が、大いに潤うことになる。 ジョーの娘さんによれば、ジョーはそれを終生悔やんでいたという。
 もちろん、これはよくある話だ。 ジョーの曲をカヴァーしたパーシー・スレッジ自身が、彼を世に出したモンスターヒット、「When a Man Loves a Woman」の大半を作ったのは自分なのに、作曲クレジットから外されたと、恨み節を語る人だった。 でも、「ま、いいさ、あの曲を世に出してもらったおかげで、そのあとの自分の長いキャリアがありえたんだから」というのが、スレッジの総括だ。 ビッグ・ママも、ジャニスサイドからお金をもらっていてもいなくても、いずれにせよジャニスの「Ball ’N ’Chain」のカヴァーが有名になったおかげで、キャリアが再度小ブレークしたという事実は残る。
 その点、気の毒なのは、ジョー・ヘイウッドだ。 彼には、何のおこぼれもなかった (スレッジのヒットにあやかろうとオリジナルを再リリースしたが、それも売れなかった)。 とても素晴らしいソウル歌手なのに (しかも、ドラムを叩きながら絶妙のソウルシンギングができるという類例のない人だった)、アルバム一枚分の録音を残しただけで、ドラッグにはまって行き詰まり、故郷のサウスキャロライナに戻って、音楽界とは無縁の後半生を送ることになった。 せめて、私らオールドスクールソウルファンの間でだけも、名曲「Warm & Tender Love」の作者にして一級品のディープな喉の持ち主として、彼の名を顕彰しつづけたい。

 Willie Mae "Big Mama" Thornton-Ball And Chain (Live):
 https://www.youtube.com/watch?v=gWe4uq6WkK0

 Joe Haywood - Warm and Tender Love (SR):
 https://www.youtube.com/watch?v=klDxWI-T5DE

 Percy Sledge - Warm And Tender Love:
 https://www.youtube.com/watch?v=tEtAEvlPStI

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