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2016年06月17日19:19

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【ブックレビュー】貧困の倫理学

貧困の倫理学
馬渕浩二著
平凡社新書


ひと口に貧困と言っても、イメージは人それぞれだと思います。日本政府がよく使うのが「相対的貧困率」なのに対し、国際貧困ラインは一日1.9ドルという絶対的な基準を使いますね。国連の基準ですと、後発開発途上国は50ヵ国くらいのようです。途上国でスマホの普及率が高いので「ホントに貧しいのか?ウチは夫婦ともガラケーだぞ」とやっかみますけれど、実は有線の通信インフラを整備するよりも無線通信の方が安上がりだとか。自分の感覚で測るのは良くないという例ですね。


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(前略)この本では、世界的貧困という問題を思考するうえで参照することが欠かせない代表的な立論―功利主義、カント主義、消極的義務論、権利理論、ケイパビリティ・アプローチ―を選びだし、それぞれの論者たちが紡いだ思考の輪郭を描くことに専念した。これらの思考群は、世界的貧困が突きつける深刻で根源的な問いに答えようとするものである。その問いとは、「先進国と呼ばれる豊かな国に暮らしながら世界の貧困問題を放置することは、はたして倫理的に許されるのか」という問いのことである。
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本書は始めに、浅い池で溺れている子供を助けることは、自分の用事を中止してでも助けるべきか、助けるべきであるならば、距離の離れた援助の必要な人も助けるべきではないか、という義務としての援助についての議論を提示します。それから、援助における義務の種類や相手を手段として扱うこと、格差原理は世界的貧困の解決にどのように貢献できるか、権利の問題について等を、それぞれ代表的な学説と反論や補足を交えて考察していきます。


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(前略)たとえば、X氏の生存権を保護するために、Y氏にその財産を提供することが要請されることで、Y氏の自由が制限されるかもしれない。自由権と社会‐経済権を対立させ、本来的な権利と呼びうるのは自由権だけであると考える立場にとっては、他者の社会‐経済権によってだれかの自由権が制限されることは受け入れがたい事態であろう。かくして、生存権にもとづいて貧困問題の解決を正当化しようとするとき、権利理論という同じ土俵上に、それを批判する主張が登場することになる。
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特に先進国においては、金銭を自由な時間や自由な行動と交換する事ができます。途上国に金銭を送るのは、自己の自由を金銭に交換して送るという行為となります。人生において自由が最大の価値だという人にとっては、愚かであるばかりか、自己の価値観の否定でもありますね。まあ同時に、それほど価値のある自由を犠牲にして援助をするのであるから、私はなんて善人なのだろうという満足感を持てるのですが(笑)。


ただ、仮に、先進国の国民が、途上国の犠牲の上に自由を謳歌しているのであれば、自由の条件とされる「他者危害排除の原則」をクリアしていませんので、それは本当の自由ではなく、貧困に対する援助の義務が生じると思います。有色人種を「他者」に含めない人も多いでしょうけれど。


本書では最後に援助の持つ権力的な側面に警鐘を鳴らしています。

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(前略)倫理的とされる行為が多様な効果をもってしまうことは、私たちの日常生活においてつねに生じている事態である。援助行為だけは例外である、とはいえないだろう。
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本書では触れていませんが、コーヒー豆などでフェアトレードの製品を積極的に選択する人もいるかと思います。しかし、フェアトレードに対してはかなり懐疑的な見方も多いのを知っておいた方が良いかもしれません。


著者はあとがきで、実践的な水準の話題や援助論に対する批判をもっと取り上げたかったと記しています。それでも、世界的な貧困問題への倫理学の貢献を知る事ができるとともに、自分は、世界はもちろん、身近な貧困問題へと、どう関わるべきかについて考える指針になる良書です。べきって書くとカントっぽすぎるかな(>_<)

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