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2016年05月01日09:57

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マスターができるまで ナツコの恋 36

『最初はじつに素朴な疑問だったんです』
『疑問?なんですりゃ?疑問って』
ナツコがテーブルの上のメモに手をおいてそう言うと、シノハラさんはナツコのはなしに興味を持ったのか、少しだけ姿勢を前屈みにし、聞き返した。
ナツコはシノハラさんの目をじっと見つめると
『だってそうでしょう?』
と反発するような仕草をし、
『わざわざ、元旦の日に塾のバイトなんてあるじゃろうか?
それも夜、遅い時間に、、
おかしいと思いませんか?
私は、おかしい、そう思ったんです。
きっと無意識に、先生のオタクからの帰り道に、自転車に乗ったあの人を見た時からそう思っとったんじゃと思うんですが、ある事をサカイに、私、明確にそう、思うようになったんです』
と言った。
シノハラさんは
『そりゃ、元旦言うたら、受験もちかい事じゃから、受験生には盆も正月もねぇじゃろうけん、一概には言い切れんじゃろけんど、
そのある事言うんはなんです』
と聞いた。
今度はナツコは俺の方を見て
『ヨシヒロちゃんも覚えてるよね。
あのレモンの喫茶店の事、
あの店でのヤマナカ君を見た時からよ、』
と言った。
俺もとっさにその事を思っていた矢先だったので、
『ヤマナカ君がノグチらぁと仲ようしとった事じゃろ』
と言った。
ナツコは不良の名前までは知らなかったので「ノグチ」という言葉には反応しなかったが
『それよ。
その事よ』
と勢いづくと
『ええ?
おかしかろ?
塾の講師をやっとるようなまじめな大学生が、なんで町の鼻つまみものの不良と友達のような付き合いをせんとおえんの?
しかもじゃ。
あの店のウエィトレス。
覚えとるじゃろ?
あの子もおかし気な子じゃったが。
人間を食べた後みたいな真っ赤な口紅、似合いもせんのに、塗りたくって。
ヤマナカ君に何じゃかんじゃ言いよって行きょったが。
パンパンじゃあるまいし、
女から誘っとる感じ、モロ出しじゃったわぁ。
その上、これが一番許せん事なんじゃけんど、ヤマナカ君もまんざらじゃねぇ感じじゃったが!
やにさがってからに!
それで私ピンと来たんよ
この男、爽やかな顔しとるけんど、案外喰わせモンかも知れんなて。
そこで私、オカザキ君に言うて「カモメ進学塾」でのヤマナカ君の勤務表を調べてもらったんよ』
と言った。
『なんでマナブちゃんの頼んだん?』
俺がそう聞くと、ナツコは
『ウン、まぁ。
そこはホレ。
アレよ』
とにわかに語調の勢いが落ちて来た。
俺は
『マナブちゃん「カモメ」の生徒じゃねかろ。
どやって調べたん』
とさらに問いつめると、ナツコはシノハラさんのメを意識しつつも
『そりゃ、オカザキ君は違うけんども、、、、
オカザキ君の親友にタニヨシ君言う頭のええ子がおるんよ。
タニヨシ君は東大確実なんよ。
先生の信用じゃって、絶対なんよ。
タニヨシ君なら控え室に出入りしても、ダレも不審がられんのんよ。
じゃからそのタニヨシ君に、控え室に忍び込んでもろうて、バイトの講師の出勤表をこっそりコピーして来て貰ろうたんよ。
それのどこがおえん?
えかろう?
そうでもせんと事の真相は掴めんでしょう!』
と言った。

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