さて、しばらくはミトコンドリアの話をつづけてゆくことにします……
ミトコンドリアが細胞の中でどういう位置にあり、どういう役割を果たしているかを詳しく説明してゆく前に、まずはミトコンドリアの色について触れてみたいと思います。というのも、ミトコンドリアという名前の中にミとドとリが入っているせいなのか、尋ねてみると、案外“緑”を思い浮かべるひとが多いように思われるからです。
細胞の神秘を扱うNHKの特別番組などを見てみても、コンピュータグラフィックスを駆使して描き出されるミトコンドリアは緑に彩色されていることが多いので、さらにその傾向に拍車をかけているのかもしれません。
けれども実際には、ミトコンドリアは“緑”ではなく“赤”なのです……「ミトコンドリアは赤い」……まず、このことをしっかりイメージしておくと、これからの話がスムーズに伝わりやすくなってゆくと思いますので、ぜひともこの赤いということを心に留めて置いてくださいね……。
では、どうしてミトコンドリアは赤いのかといいますと……それはこのミトコンドリアの中には、チトクローム酵素と呼ばれる赤い色をしたヘム鉄酵素がたくさん含まれているからです……。
チトクロームというのは、ミトコンドリアの中にあって電子伝達系と呼ばれる複雑なエネルギー産生に深い関わりのある酵素なのですが、それが赤いのは、よく知られている赤血球のヘモグロビンが赤いのと同じ理由です……
つまり人間は、口から取り込んだ栄養という燃料を、60兆とも言われる細胞の中で燃やすために、もうひとつの燃料である酸素を鼻から吸って、肺に取り込み、さらにそれを赤血球に積み込んでいます。そして、そうして積み込んだ酸素を、赤血球によって、からだ中の細胞ひとつひとつに宅配しているのですが、酸素が運ばれてゆくその経路には、かならず“鉄”という物質が介在し、そしてその“鉄”が酸素と触れ合うたびに、そこで鮮やかな赤が放たれるという仕組みになっているということです……
血が赤いことは誰もが知っています……そして、その血の赤さが、血液の中を流れている赤血球という細胞の赤さに由来することや、その赤血球の赤さが、ヘモグロビンと呼ばれる酸素を運搬するに成分に由来することも知っています。
ところがそれから先の酸素のゆくえについては、あまり聴かされてこなかったこともあり、その最終目的地が細胞内のミトコンドリアであることと、ミトコンドリアの中でもヘム鉄酵素が働くことによってミトコンドリア自体も赤く発色していることまでイメージできるひとは少ないと思います。
けれどもこれを一連の酸素運搬経路における鉄の関与と、赤色……という流れがつかめてくると、グランディングというテーマが浮上してくるたびに、なぜ“赤”という色が取りざたされることになるのか、その生理的・生物学的背景がよく見えてくるのではないかと思います。
こうしてみると、赤が不足するからだというのは、酸素運搬能力が低いからだであり、また、それは体内の鉄の含有量に大きく左右されているであろうこと……そして、その帰するところはミトコンドリア活性の低下に通じるということが、かなり明らかになってきたことと思います……。
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