最近リリースされたばかりのビデオ、『らくだの涙』をさきほど見終わったところです……
この物語、舞台はモンゴルの平原……2、3家族が文明から遠く離れた生活を営んでいます……羊たちや、ラクダたちが、家族の一員のようになって暮らしている風景が、のどかなリズムと失われた時間の流れを感じさせてくれます……
そして、ある日のこと、産気づいた一匹のラクダが難産のすえに、ようやく初めての産み落とすのですが、生まれてきたその子は、なぜか白いラクダだったのです……
しかも難産だったせいなのか、生まれてきた子が白い毛並みをしていたせいなのか、母ラクダは、子ラクダを一向に育てようとはせず、子ラクダが、母ラクダの下に潜り込んでおっぱいを吸おうとするや否や、後ろ足の膝で、蹴りをくらわせ、追い返してしまうほど……
家族のひとたちは、ラクダの母子を和解させようと、懸命な努力をするのですが、母ラクダは頑として、子ラクダを受け入れようとしないのです……ひとびとは、人工哺乳でなんとか子ラクダを育てようとするのですが、やがて、子ラクダは、そのミルクを飲む気力も失って、どんどん衰弱してゆくのでした……
危機を感じた村人たちは、幼い兄弟2人を県庁所在地である街へと送ります……、そして、ひとりの馬頭琴奏者がこの村へと招かれます……モンゴルでは、こういう事態にそなえた、特別の儀式が用意されており、母ラクダと子ラクダの和解に向けての歌と音とが捧げられるのです……
招かれた馬頭琴奏者は、ターコイズブルーの衣装を身にまとい、そして、馬頭琴のネックの部分にも鮮やかなターコイズブルーのショールを結びつけ、ゆっくりと音を奏でてゆくのですが、それに合わせて、今生まれたばかりの赤子を育てつつあるマジェンタ色の衣服を身に着けた村の母親が、母親ラクダのからだをやさしく撫でながら歌います……
最初に馬頭琴奏者が行なったは、ラクダの身体に馬頭琴をゆわえつけ、その弦が平原の風のつま弾くに任せることだったのです……風が吹き、ラクダの身体にゆわえつけられた馬頭琴の弦が、そのネックの部分に結ばれたターコイズのショールと共に揺れて、震え、微細な音を奏でます……
その瞬間、母ラクダに電撃的なショックのようなものが走るのを見ることができました……
平原に、馬頭琴と、母の歌うヴォーカルが延々と響き渡るなか、ラクダの母の眼から大粒の涙が、1粒、2粒、3粒とこぼれ落ちはじめ、そこでようやく白子ラクダは、母ラクダからおっぱいを受け取ることを許されて、母ラクダの懐に飛び込んで、渇ききった喉を、ごくごくと潤してゆくのでした……
詳しい資料を読んでみると、なんとこの映画、ミュンヘン映像大学に在学中の学生が、03年の卒業制作として取り組んだ作品のようです。イタリア生まれの男性ルイジ・ファロルニとモンゴル生まれのビャンバスレン・ダバーによる合作ですが、二人はともに1971年生まれ……
映画でとりあげられていた家族は、モンゴル南部のゴビ砂漠で暮らしている実在する四世代家族……らくだたちの出産を次から次へと撮影しているうちに、このシーズンの最後の出産となった白いらくだを、実際に、母親ラクダが拒絶したそのシーンが撮られているようです……
子らくだを受け入れることが出来ない母らくだの頑ななこころを溶かしてゆく音の儀式は、フースの儀式と呼ばれており、そして母らくだには“インゲン・テメー”、子らくだには“ポトック”という名前がつけられていました……
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