今回は児童文学でしょうか。それとも童話かな。
長文だけど良かったらどうぞお読みください。
『夢はかせ』 風かおる
はかせは今日もビーカーをアルコールランプで温めています。
ビーカーの中には、緑色のえき体が入っていて、ドライアイスがつくる水じょう気のようなけむりが部屋中に立ちこめて始めました。
ここは、はかせの研究所です。
はかせは、黒ぶちの丸い大きなメガネをかけてビーカーの中のえき体を見つめていました。一見風変わりな人のように見えるはかせなは、本当は世界的に有名な人なのです。
「東京大学の先生になってください」
「マサチューセッツ工科大学の先生になってください」
「ケンブリッジ大学の先生になってください」
大学からよくすすめに来ます。
ケンブリッジ大学からのすすめには少しだけ心が動きました。はかせの尊敬している万有引力の発見家のニュートンが昔そこで先生をしていたからです。それにその大学ではノーベル賞受賞者が六十名以上もいるから。
でも、はかせは、「研究がいそがしいから」といつもことわっています。
みなさんは知っていますか、はかせのデスクの上には、バクの置物が置かれているのですよ。バクとは、悪いユメを食べて、楽しいユメにかえてくれる動物。想ぞう上の動物なのですが、はかせは世界のどこかに住んでいると信じています。はかせは、そんなバクが大好きなのでした。
そーです。はかせは、楽しいユメをみせてあげる研究をしているのです。自殺が毎年三万人以上もいる日本。「どうにかしなくっちゃ」と思って始めた研究なのです。
起きている世界が、つらく悲しくさびしく、ひとりぼっちだったり、びんぼうな世界だとしても、せめてユメの中だけでもハッピーにしてあげたいと思ったからです。
研究は少しづつ進んでいるのですが、はかせには頭のいたいことがありました。それは、研究スタッフにめぐまれていないことです。
この研究所には、はかせと、助手のたまえさん、用む員のおじいさん、それと九官鳥がいました。
全員が仕事を開始する午前九時になりました。はかせは午前七時から研究していましたが、研究スタッフはまだ仕事を始める準備ができていません。
おじいさんは、朝ご飯を食べはじめました。
「仕事が始まっているので、朝ご飯を食べるのはいけないですよ」
はかせはもちろん注意をしました。
「どーして、おなかがすいているのに、ご飯を食べてはいけないの?」
おじいさんは、平気です。
またおじいさんは、みんなにだまって、ぷいっと研究所を出て行って帰らないこともありました。それで、みんなで近くの野原をさがしたこともあります。
おじいさんは、またよくいねむりをします。
ついこの間も、あまりぐっすりねむっていたので、死んだと思ったたまえさんは、お寺のおぼうさんをよんでしまいました。おそう式をしようとしたのです。
一時間ののち、とつ然かんおけの中の死体が起き上がったので、大さわぎ。
でも、おじいさんはみんなのめいわくになったことを反省するのでもなく、
「ぐっすりよくねむったわい」と笑顔でした。
おじいさんは、手品が大好きでちっとも仕事をしません。
仕事中に、はとを出したりして遊ぶので、はかせはこまっています。
「ちっとは、仕事しろよ」
弱気なはかせは、おじいさんにはもんくが言えなくて、九官鳥に、ぐちを言いました。 たまえさんは、やっと来ました。一時間もちこくしてます。
『ぶよん、ぶよん、ぶよん。はー、はー、はー。ぜー、ぜー、ぜー』
太った身体をゆすって、息を切らせてやって来たのです。
「ダイエットしているのに、全然やせないわ」とつぶやきました。
でも、やせないひみつは、研究所のみんなは知っています。
朝ご飯だって半ぱではないからです。トースト二枚にサラダ大もりとハンバーグに目玉焼き、牛乳とオレンジジュースとコーヒーがそれぞれ一パイ。これでも多いのですがそれだけではありません。サケの塩焼きに玉子焼きそれとノリ、ワカメのお味そしる。大もりのチャーシューめんにギョーザ二皿もありました。
それってどんなに運動してもダメだよね。
さて、こうしてベストメンバーがそろいました。でも、まだ、仕事にはなりません。
おじいさんは、朝食後にタバコに火を点けると一気にすいました。
そして、口からけむりでできた大きなリングを出します。そのあと続けて、口からスカンクのおならのようなくさいガスをその輪の中心にはきかけるのです。
それって公害ならぬ口害だよね。
一方、たまえさんは、りかちゃんの絵がついているブラシで長いカミをといている。
仕事をしているのは、はかせだけなのです。
はかせは、アルコールランプの火を消すとビーカーを冷やしはじめました。
『パタ、パタ、パタ』
はかせは、去年の夏祭りでもらったうちわであおぎます。うちわはやぶれかかっていました。クーラーもせん風機もない研究所のこと、うちわはビーカーばかりか体を冷やすときにも使われましたから。それも一つしかないのを全員で使うのです。
そして、もっと冷やそうと今度は氷を入れたせん面器にビーカーを入れました。出来たえき体はサンせいかアルカリせいかを調べなくてはいけません。
「リトマス試験紙を取ってください。」
はかせはたまえさんにたのみました。
「自分ですればー」
たまえさんは、動こうともしません。
いつもなら午前八時に起きて朝ご飯を一時間以上かけて食べるのですが、今日はねぼうしていた起きたのが午前九時半になっていましたから。それで朝ご飯を食べてきていなかったのです。それでおなかがすいて動けません。
「冷ぞう庫にウィンナーやベーコンそれに玉子や牛乳があるから食べれば」とおじいさん。
もちろん冷ぞう庫も冷ぞう庫の中身もはかせの物なのですが、おじいさんは自分の物とかんちがいしています。
「それ、全部食べちゃっと」今度は体が動くたきえさんでした。はかせの昼食はすべて消えました。
はかせは、しかたなく、自分でタナからリトマス試験紙を取り出しました。
おじいさんは朝食を食べているたまえさんに見せたくて、トランプ手品を始めました。
『いそがなくっちゃ』
はかせは、知っていました。トランプ手品で遊んだあとは、おじいさんはつかれてコックリコックリといめむりを始めることを。
「おじいさん、グリーンティはいかが?」
はかせは、ビーカーの中のえき体を、おじいさんにすすめました。そのえき体は、いかにもグリーンティににていたのです。そのえき体は、ま薬でも毒薬でもありませんし、副作用もありません。
緑色のえき体を飲んだおじいさんは、いつものように、いねむりを始めました。
『ガォー』
しばらくして、おじいさんは、とつ然起きます。
はかせも、たまえさんも、おじいさんの次の言葉に注目しました。
「わしは、タンポポがいっぱいのおかのしゃ面にあるお花畑にいたのさ」
「プログラムどおりだ!」はかせは喜びました。
おじいさんは言葉を続けます。
「するとそこに、とつ然の風が吹いたかと思うと、黒いマントの女がやって来たのさ。その女をよく見ると魔女だったのさ。」
「ええっー、魔女だって……?」
はかせばかりか、たまえさんも、おどろいています。
「わしはいやだったのだが、りんごを食べさせられてしまったのた。もちろんそれは毒りんごだったのだよ」
おじいさんがそう言うと、
「また失敗だ」
はかせは、頭をかかえました。
「白雪ひめが出演するはずなのに、魔女に変っちゃうなんて」
研究はまだまだ続きます。
赤ずきんちゃんのずきんの色が、赤にならずピンクのままで変わらない。
シンデレラは太ってしまってガラスのクツがはけないので王子さまのおヨメさんになれません。
みにくいはずのアヒルの子は、生まれたときからとっても可愛い美人でした。
ジャックのうえたマメは、天候不順で、発芽しませんでした。
失敗続きです。
でも、きっとすぐに、はかせは、楽しいユメが見られる薬を、発明してくれることでしょう。
「早く楽しい夢を見させて自殺予防しなくっちゃ」と口ぐせのようにはかせは言っていますから。
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