社会人になってほどなくだったがNHKから電話があった。NHKといっても地方局だが、ともかく受話器の向こうで言っていた。「FM番組に出てくれませんか」。
当時、昼間わりあい長時間の軽音楽番組があって、途中に地方局から放送する枠が設けられていた。この枠というのは特別なジャンル、例えばシャンソンとかジャズが好きな地元住人に喋らせ持ち込んだレコードを掛けさせるという企画もの。CDなどこの世に生まれていない時代の話。
誰かの推薦で白羽の矢が立った…らしい。
という次第でFMデビューとはなった。
白羽の矢の的は「ムード音楽」。
どこの誰がここに「ムード音楽」好きがいると知ったのか?個人情報漏洩か?そんなことより、いよいよメディア・デビューか!
前もって当日掛けたい(生放送である)曲目をリストアップしレコードを預ける。担当アナウンサーが時間内に収めたい曲目を決定しこちらに連絡。あとはぶっつけ本番だった。当然アナウンサーには進行のための台本らしきものがあり、こちらはアナウンサーの振る話に合わせるだけなので楽なもの。その合い間合い間にレコード音楽を放送していった。
掛けたレコードはユーゴー・ウィンターハルター楽団の「エクスタシー・タンゴ」とか、ヘルムート・ツァハリアス楽団の「ゴットランドの夏の夜」などなど6、7曲だったと思う。
スタジオには見学者というか傍聴者というか10人位来ていて、「ゴットランド〜」が掛かると高校生くらいの男の子が一緒に来ていた友人に「あ、これ天気予報の音楽じゃん」と言っていた。かけた曲を知っている人がいてくれて嬉しい。音楽を送り出している時スタジオの音声は切られているので喋ってもOKなのだ。
無事、役目を果たし帰りに謝礼を渡された。それはNHKのロゴが入った革製の札入れで結構立派なものだったのだが色がなんとウグイス色。茶色とか黒だったら嬉しかったけど一度も使われることなく机の引き出しに永眠する破目に。でも一生のいい思い出だけは残った
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