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2015年05月08日19:05

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地中海の悲劇とEUの苦悩

今週のTIME誌が伝える「ヨーロッパ、良心の危機」と題する特集記事に注目しました。
拙訳で恐縮すがご一読頂ければ嬉しいです。
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4月19日イタリア沖の地中海で起こった悲劇がEU諸国を揺るがせている。リビアからヨーロッパへ脱出しようといた密航船が沈没、800人の死者を出し、救出されたのは僅か28人。
増え続ける移民密航者の犠牲と、EU内部で顕著になってきた反移民感情の高まりに、ヨーロッパのリーダーたちはどう対処しようとしているのか?

戦争と迫害から逃れ、少しでもマシな生活を求めてヨーロッパを目指す中東、アフリカ、南アジアの人たちの抑え難い渇望が、今やEUの政治を揺り動かし、人道問題との狭間でリーダーたちを悩ませている。
そんな中で起こった4月19日の悲劇で、この問題が一気に先鋭化し、高まる一方の反移民感情のうねりに、ヨーロッパの伝統的な寛容の精神が押し流されようとしている。

ますます増え続ける危険な密航移民に直面して、各国のリーダーは国内の反対勢力を抑えつつ、漂着した違法移民の保護という作業を法制上と人道上の両面から進める難題と戦っているのが現状だ。
事故の直後4月23日にEU28国のリーダーがブラッセルに集合し、地中海沿岸に漂着した密航移民の救済を決める決議を行った。沿岸警備艇とヘリコプターへの予算を3倍に増やし、入国手続きの簡素化やリビアにおける安定政権樹立への国連の活動の支援などを決めた。またイギリスとフランスは国連の要請に応えて、リビア沿岸の密航船を事前に拿捕し破壊する作業を開始した。
この決議でEU首脳たちは「先ず最優先の課題は、地中海での移民たちの溺死を防止することである」と合意した。

これに対して、避難民支援のNGOからは、対策は全く不十分だと非難の声も。
アムネスティ・インターナショナルなどは「これは避難民の命を守る対策ではなく、自分たちの面子を守るための決議だ」と非難。この決議は移民受け入れに関するUE各国間の考え方の違いを露呈していると指摘する声もある。

EUの規定では、亡命難民が最初に上陸した国が、移民申請者から聞き取り審査して必要な書類交付する義務があり、難民承認された移民はその国に留まることは出来るが、そこから更に他の国への移住はできない。

移民大部分を受け入れているのがイタリアとギリシャ、マルタだ。圧倒的に大量の移民の入国手続を処理し居住場所を提供する重圧に耐えかねた三国は、規定改正を求めて移民たちを受け入れて欲しいとイギリスやオランダなどの北方諸国に泣きついているが、北方諸国の腰は重く、EU決議の範囲内でイタリアとギリシャに入国手続きを助ける人員を送ることでお茶を濁しているのが現状だ。

イタリア海軍は”Mare Nostrum(我らが海=地中海)という名のシステムを作って地中海での遭難発見救助を目的とした独自の救援活動を行ってきたが、数か国の首脳から、難破してもイタリアが助けてくれるという期待を持たせることで密航移民の発生を助長していると非難された。EUも密航業者を儲けさせ難民を溺死の危険に追いやるだけだという理由で制度に対する資金拠出の打ち切りを決めたため、昨年11月イタリアはこの制度を廃止してしまった。

EUは代りにTriton計画を創設したが、予算はイタリアの制度の三分の一に減らされ、監視艇のパトロール範囲も沿岸から50キロ以内に限定された。
天候が安定してきたことも手伝って、4月にこの新制度の運用が始まって以来、密航船の数も遭難者の人数も記録破りの増加となった。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によれば、昨年一年間の密航者219,000人、溺死・行方不明者3,500人であったが、密航者の数は今年は倍増が確実な情勢と言われ、一方国際移住者協会では溺死・行方不明者は30,000人にのぼると警告している。

ヨーロッパにとって難民問題は今始まった話ではない。現行の難民に関する国際法も、第二次世界大戦でのナチスによる600万人のユダヤ人虐殺をはじめ数百万人の人たちが国を追われた苦い経験から作られたものだ。1950年国連によって創設されたUNHCRは「もし迫害された人たちがあなたの国に救いを求めてきたら、それを保護し、継続して彼らの問題解決に当たる責務がある」という強制力のある規則を定めている。

しかし一方で、より良い生活を求めてやってくる経済難民に対しては法律上の保護義務はない。保護義務がある被迫害難民と経済難民の識別という難題が裕福な国々を悩ませているのだ。激しい内戦や宗教上の理由、政治信条、性差別などで不当な拘束や殺害の危険に曝されて逃げてくる人たちと、生存不能なほどの貧困を逃れてやってくる人たちが混在しているのが実情だが、法律で保護されるのは前者だけだ。
現実は、この両者を合わせた難民の数の急増が先進国を悩ませ、結果として真に迫害された人たちの受け入れをも躊躇させる結果になっている。
原因は多岐にわたっているが、昨年夏の時点で国を追われた難民は5,100万人と言われている。国連が規約を決めた時には到底予想された数ではない。オーストラリアのように、政治難民も含めてすべての難民の入国を拒否する国がでてきても不思議はない。

イタリアのMare NostrumをやめさせたEUのやり方は失敗に終わった。難民の数も溺死者の数も急増の一途だ。EUの政治家には、ある意味でこれら溺死者にたいする責任があるとの声も出ている。
「ヨーロッパは、世界で最も弱い立場の人たちに背を向けたのだ。そして今や地中海を墓場と化す危機が迫っている。」4月19日の悲劇を聴いて激怒した国連人道問題高等弁務官のZeid Ra’ad Al Husseinの言葉だ。

スイスに本部を置くエリトレア・カトリック教会のZeria司祭は、もう何年も前から移民たちのための私的ホットラインを設け、危機に瀕した密航移民からの緊急連絡を受けている。彼の携帯番号は移民たちの間では広く知れわたっているのだ。「イタリアのMare Nostrumが機能していた昨年11月までは、危険な状態の密航船の位置をGPSで確認してイタリアとマルタ島の巡視船に連絡、巡視船は直ちに難破船に急行して救助に当たってくれた。しかし、その制度が廃止されて以降は緊急連絡を入れても、出動までには時間がかかるという返事が多くなり、間に合わないこともしばしばだ」と語っている。

4月19日の事故以後は、救助出動も早くなりより多くの人命が救われるようになって欲しい。ドイツのメルケル首相は「われわれはもっと努力せねばならない。目の前の地中で、これ以上の悲劇を起こさせるわけにはいかない。」と語っている。

何故これだけ多くの人たちが国を捨てて危険な脱出に走るのか?
多くの密航移民にとって、かれらの祖国そのものも、脱出を試みる地中海沿岸の港も全て戦闘地帯。かれらが乗船する港はリビア沿岸地帯にあり、そのリビアは今や武器が溢れる戦闘地帯だ。統治機関は全く機能せず、内戦に加えて、自称イスラム国の支部を名乗る武装集団が暴力を振るい始めている。

2011年NATOが空爆で、42年間のカダフィ独裁政権を崩壊させて以降、リビアは正に混沌の中にある。二つの政府が抗争を続け、地域ごとに違った武装集団が支配しており、その政治的空白につけこんだ密輸業者や人身売買業者が暗躍する世界なのだ。

密航業者が急増したのは2013/14年のこと。何万という比較的裕福なシリア市民が、激しい内戦を逃れてリビア経由でヨーロッパへの脱出を試み、高額の金を密航業者に支払うようになってからだ。
ゼノアに本部を置く「国際的組織犯罪撲滅協会」のトップReitano氏の話では「シリアからの難民が押しかけてくる前は、密航業者も余り儲る商売ではなく、今あるようなネットワークや共同作業体制など考えられなかった」そうだ。

昨年リビアからヨーロッパを目指して密航したシリア人は17万人という突出した数にのぼっている。これが疑問の答えなのだ。




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