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2015年02月10日16:00

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スリラー (ある意味で)

  
居酒屋の亭主(T) 「お客さん、それじゃあ、スルメでも焼きましょうか。」
客A 「おい、親爺。 スルメは勘弁してくれ。 おらっちのほうじゃ、ゲンを祝って [かついで]、アタリメというんだ。
 擂り鉢がアタリ鉢、摺り鉦 (がね) がアタリ鉦、磨りガラスがアタリガラス、スリッパがアタリッパ、駿河の国がアタルガの国・・・てぇくらいのもんで、スルは”お家のご法度”なのさ。」
T 「はいはい、そうですか。 こりゃあ失礼しました。 それじゃあ、アタリメでも焼きましょうか。」
A 「おう、十枚でも二十枚でも、といいたいところだが、とりあえず一枚、焼いてくんな。 言葉とがめして、おおきに済まなかったな。 
 おらぁ、これから夜明かしでガラガラポンだから、”スル”はどうにも縁起がよくねえ、てぇ塩梅式で・・・。」
客B 「おう、そちらのお若いの。 聞き捨てがならないことをいう。 ”スル”は、そんなにいけませんかね。」
A 「あ? ああ、これはこれは。 お耳にとまりやしたか。 そりゃあ、いけませんとも。 おらっちバクチ打ちだけでなく、堅気の衆にとっても、それが道理でしょう。
 スレば、お銭 (あし) はなくなる。 スリ続ければ、無一文になる。 どんな世間ずれした悪党だって、スルのが好きだってぇやつは、いませんぜ。」
B 「それが、いたらどうする。」
A 「はあ?」
B 「あんた、若いのに、耳が悪いのかい?
 スレば、お銭が入ってくる。 スリ続ければ、懐がどんどんあたたかくなる。 だから、スルのが大好きってやつが、いたらどうする、って聞いてるんだよ。」
A 「はあ? あはは。 爺さん、冗談いっちゃあいけねえや!」
B 「おい、お若いの、お前、どこの親分から、杯を受けた? それとも、素人が、ちょいと遊 (あす) びを覚えただけで、いっぱしのバクチ打ち気取りか。
 いずれにせよ、わしの顔を知らんとは、木っぱ屑以下、かんなっ屑のたぐいに相違あるまい。
 おい、よく覚えておけよ。 世の中は、広い。 広い娑婆には、”火にあたる”を”火にスル”、”当たり前”を”スリ前”なんと言いかねない渡世も、あるのだぞ。
 ああ、ゲンが悪いやつと、口をきいてしまった。 亭主、お勘定を。」
T 「・・・七十二銭で。」
B 「ここに置くよ。 そこの若いのの分も込みだ。 釣りはいらない。」
T 「はあ、こんなにたくさん。 これは、まことにどうも、ありがとうございました。」

A 「変な爺ぃだなあ。 奢ってはもらったけど、キツネにつままれたような気分だぜ。
 親爺、あの爺ぃがどこのだれだか、知ってるかい。」
T 「あなた、ご存じないんですか。 あれが、仕立屋銀次の親方ですよ。」
A 「したてやぁ? あれが、あの? 
  (自分の懐を押さえて) うわあ、しまった。 やられたぁ!」

 ***
 いや、なんとなく思いついたので、書いただけです。
 銀次を主人公にした講談もあるけど、その渡世を扱った落語で好きなのは、もちろん米朝さん作の「一文笛」。
 米国の軽ノベルでは、ジョンストン・マッカレー (「怪傑ゾロ」の作者) の「地下鉄サム Thubway Tham」を、中学か高校のときに楽しんで読みました。

[参考資料]
 仕立屋銀次、検挙される:
 http://meiji.sakanouenokumo.jp/…/arch…/2009/06/post_133.html

BGM:
 You've Got to Pick a Pocket or Two (from: "Oliver!" - 1968) :
 https://www.youtube.com/watch?v=VogHwP0C5VY

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