イラクからISISをイラクから追い出すメドは立ったが、さてその後は？

NYタイムズ紙は、先ほどのツイートで、ISISに戦闘で勝利したとしても、シーア派とスンニ派の宗派対立で混乱するイラクの政治的内部対立を解決できなければ「悲惨な勝利」に終わる恐れが大であると警告しています。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

イラクに関する限り、いつも良いニュースには悪いニュースが付いて回るようだ。
良いニュースは、イラク、クルド、アメリカ連合軍のISISとの戦いが、大きな転換期に入ってきたことだ。

アメリカ主導の空爆でISISは多くの戦闘員や車両、指揮命令系統を失った。その結果、彼らは明らかに勢いを削がれて守勢に回っている。昨年夏以降、彼らはひと頃のような快進撃を見せていない。アメリカ軍筋の情報では、大幅に改善補強されたイラク国軍が、6~8か月でISISをイラクから駆逐する大作戦を敢行する予定だ。

クルドとイラクの連合軍は既にバグダッド周辺の要衝バイジやサマラを奪回し、イラク第二の都市モスルを制圧し駐屯しているISISの部隊とシリア内の本部との連絡網を絶つことにも成功している。

これらは良いニュースだが、問題はイラク自身の政治面の問題では、軍事面の成功に見合うような進展はみられない。
スンニ派とシーア派の宗派間対立解消が頓挫しているのだ。
2006年から二年間に亘る両宗派による内戦の古傷が、2010年から2014年まで政権の座にあった前首相によるスンニ派に対する容赦ない弾圧で大きく口を開いた形で、その結果がスンニ派のISIS擁護となりテロ集団の跳梁を許すことになった。

イラク国軍も警察も圧倒的にシーア派が支配していた。
マリキの後を引き継いだアル・アバディ首相の大英断で、国軍のトップや政界から、シーア派が追い出され、スンニ派も含めた有能な人材が多く登用されたのだが、下士官クラスや下級将校にはまだ多くの無能なシーア派が頑張っている現状である。

更に問題なのは、最近の軍事的成功の多くが、イランの悪名高いイスラム革命防衛隊の支援を受けたシーア派の力がものをいっていることだ。
こんな状況ではスンニ派の支配地であるアンバールやニネヴェ、サラー・アルディン地方での作戦は非常な困難が予想される。
スンニ派住民の多くは、シーア派軍隊のスンニ派に対する残酷な仕打ちの噂に怯えているからだ。新たな宗派間の勢力均衡の協定を結び、スンニ派住民が不当な差別を受けないという保証を明示しなければ、スンニ派住民は、イラク国軍のみならずクルド兵士までも解放者ではなくシーア派の征服者だと恐れるだろう。そうなれば、住民はISISの側につき、もしISISが敗北してもシーア派の軍隊には抵抗するだろう。

ISISに対する軍事的勝利が、イラクに燻ぶる内戦の脅威を終わらせることにはならず、逆に燃え上がらせる結果になってはならない。だが、残念ながらイラクの宗派間の融和が実現する見込みは殆どなく、かれらに任せておけば「悲惨な勝利」に終わる公算が大きい。

アバディ首相は有能な政治家で、宗派間の和解の重要性を充分認識しているが、政界を牛耳るシーア派が彼の努力を無にしている。シーア派の指導者たちの多くが、スンニ派に不信感を抱き宗派間の融和に反対しているのだ。また、多くの有力者が彼の足を引っ張って首相の座を狙っているのが現状だ。
イランは宗派間の融和には賛成しているが、自分が望む形での融和を主張してアバディ首相を苦しめる。

問題はマリキ前首相による弾圧でスンニ派の指導部がばらばらにされてしまったことだ。多くのシーア派政治家は、スンニ派には、まともな交渉ができる正当な指導者がいないことを理由に融和の話し合いに応じようとしていない。
一方政府の方もスンニ派の政治勢力を纏めようとする気があるようにも思えない。政府は充分スンニ派住民を支援していると言うが、実情は彼らに対する福祉の手が差し伸べられているとは言い難い。

要は、イラク人は自分たちの手で問題を解決する気がないということだ。誰かがやってくれるべきだと思っている。その誰かはアメリカ以外にありえない。

イラクの現状を改善しようというオバマ大統領の努力は既に大きな成果をあげているが、肝心のイラク人の間で政治的融和が成立できなければ、折角の軍事的努力も無意味になるおそれが十分にある。

問題の解決は困難だが、不可能ではない。解決策としては、有能な人材を特使としてイラクに派遣して、スンニ派の助言者もしくは代弁者として働いてもらうのも一案であろう。
ISISとの戦いの勝利を意味あるものにするためには、イラクの政治的統一の達成が不可欠だということである。