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2013年10月10日01:13

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時代を作る大人たちに問いかける映画(映画「飛べ!ダコタ」を見て)

 日本に原爆が落とされ太平洋戦争が終結してから
まだ5ヶ月程しか経っていない昭和21年
(1946年)1月14日。
 日本海に面した新潟県佐渡島にある
小さな村の海岸に1機の軍用機が不時着する。
イギリス軍のC−47輸送機、通称「ダコタ」。
上海のイギリス総領事が東京のGHQを
表敬訪問するため日本に向かっていたところ
悪天候に遭遇。エンジントラブルを引き起こし、
この地に緊急着陸したのだ。
乗組員は総領事と同行のイギリス兵合わせ11名。

 機体から出て辺りの様子を窺う兵士達。
それを恐る恐る遠目から見守る村人達。
彼らの装いから、半年程前まで日本の
敵国だったイギリスの兵士だと分かる。
緊張感漂う中、一人の女性が兵士達に近寄る。
村長の娘・千代子(比嘉愛未)だ。心優しい
彼女は片言の英語や身振りで
兵士達に怪我が無いか気遣い、独断で村人に
彼らへの敵意はない事を伝える。
 娘の勝手な振舞いに怒りを顕わにした村長
(柄本明)だったが、直ちに対応策を協議
しなければならなかった。
 協議に集められたのは、学校長の浜中
(蛍雪次郎)や消防団長等の村の役人達。
 戦争で敵国の兵士に家族を殺された村人の
気持ちを汲んで彼らに気遣いするべきではない、と
主張する者。反対に、イギリスを含め今日本を
占領している連合国軍を刺激しないように
彼らを丁重に迎えるべきだと進言する者・・。
 皆から結論を一任された村長は、飛行機の
修理が済むまでの間、彼らに宿と食料を
提供する事を決め、イギリス兵達に伝える。
 兵士の間には「敵だった日本から情けを受ける
のは屈辱だ」との意見もあったが、こちらも
トップの判断で村の決定を受け入れる事にした。
 
 次の日から千代子を先頭に、村人達の兵士達への
もてなしが始る。当初はお互い、恐る恐るぎこちない
付き合いであったが、相手も平時は普通の人間で、
当たり前のように親切心や感謝する気持ちを
持ち合わせ、愛する家族がいる事を知るようになると、
心と心とを通わせ交流するようになる。

 約67年前に実際に起こった出来事をもとに作られた
この映画。かつての敵同士がお互いを理解し友情を
深め合ったという美談だけでは終わらない。
 
 千代子の幼馴染で片思いの相手・健一
(窪田正孝)の存在が、観る者の心の棘となる。
 彼は当時のエリートコースであった海軍士官学校に
入学するも、怪我を負い退学。そのおかげで出征は
免れたものの、戦争で仲間を失う。浜中
はじめ大人達からは「鬼畜米英、お国のために命を
捧げる事が名誉だ」との教育を受け固く信じてきたが、
敗戦後大人達は「平和が第一。米英とも
仲良く付き合いましょう」と豹変する。一人生き
残った惨めさと一瞬にして考えを180度変えて
しまった大人達への怒りで、彼は頑なに心を
閉ざすようになった。
 戦争で教え子達を失った悲しみと、自分の教えで
健一の人生を狂わせてしまった事への後悔とに
苛まれる浜中。

 出征した息子の帰りを待つ敏江(洞口依子)の存在も
観る者の心をざわつかせる。
 今か今かと息子の帰宅を待ちわびていた彼女のもとに
ついに遺骨と遺品が届けられた。厳しすぎる現実に、
彼女は正気を保てなくなってしまう。
 
 イギリス兵達の真の姿を知り、すっかり仲良くなった
村人達は言う「何であんな良い人達と戦争したのかのう?
この戦争は誰の責任なのかのう?」と。村長は答える
「(私ら大人)みんなの責任じゃ」と。
村長や浜中は、兵士達を労わる理由を、占領軍の神経を
逆撫でしないためとしか言っていないが、
それだけではあるまい。
 心のどこかに、夥しい数の死者に加え健一や敏江の
ような存在を産み出した戦争を止められなかった事への
自責の念と、償いの思いも動機のうちに入っていたのでは
ないかと拙者は考える。

 果たして、ダコタは修理を終え、無事佐渡の大空に
舞い上がる事が出来るのか?
 ダコタ以上に観客の関心事は敏江と健一である。
敏江は息子の死を受け入れ、心の平穏を取り戻す事が
出来るのか?
健一は己の人生と向きあい、新たなる一歩を
踏み出せるのか?
 
 この映画は、国同士の戦争を乗りこえた人と人との
絆の尊さを語っているが、もう1つ重要なメッセージを
含んでいるように思う。
 それは、拙者を含め今生きている一般の大人達に、
現在や次の時代を作る責任の重さを訴え、その自覚が
あるか問うているのではないのか。
 大人の判断が誤れば、時を越え再び健一や敏江のような
不幸な人達が生まれてしまう。
 そうならないために、歴史から真に大切なものを学び
取れと、この映画は大人達を戒めている気がして
ならない。
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