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2012年11月29日16:00

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морг ��

地球に戻り、目の前に並べられる道具。
あたしの愛銃、ブローニング・ハイパワー9mm拳銃。
ケースレス弾小銃。
ケースレス弾サブマシンガン。
スタンガン付きナイフ。
ロシア軍仕様キウイ型ハンドグレネード。
精密機械専用ツールキット。
プラスティック爆薬プラス起爆装置。
軽量装甲パワードスーツ。
装甲ヘルメット。

それらを身に着け、ヘルメットの電源を入れると、視界に多重マトリックスが広がり、ヨシフの声が入ってくる。「作戦開始だ、ニーナ」。

あの時と全く同じ声だった、当時のあたしはションベンくさい10歳になったばかりのガキ。しかもめくらの状態からいきなり視力とネットを与えられて、わけもわからずに部屋のすみっこでガタガタ震えていた。マーツ(ママ)、マーツ!!ママのぬくもりを求めて泣き叫んだあたしの耳に入ってきたのは無線から流れるヨシフの冷酷な声。

死を征服せよ。

死の街、オハ。泥と血にまみれたあたしは、宙に浮かぶ軍事衛星とリンクすることを覚え、対地上レーザー照射を後方掩護とし、扱い慣れない銃で次から次へと兵士たちを殺した。レーザーで地表が裂け、戦車が蒸発し、人体が塵になるなかのあたしは死そのものだった。

ガキの頃のあたし自身の絶叫を思い出し、ゆっくりと身体を仰け反らせて、輸送ヘリの轟音と震動に心を委ねる・・・

外は猛烈なブリザード。近くの北海道も大災害に追い込んだほどの激しさ。「そろそろ降下ポイントだぜ、ウェージマ」とパイロット。ウェージマはロシア軍時代のコードネームだ。老いた魔女を意味するバーバヤガーの反対側に位置する若い魔女。金髪と琥珀色の瞳、真っ白な肌。それを除けば後は真っ黒け。ロシア軍きっての電脳工作兵、ニーナ・パウロエウィチ・クイビシェフ。彼女は再びオハの街へ。

イワンはニーナが少女時代を埋めたオハに陣取っている・・・攻撃目標の画像が再度全ロシア軍、そして月面のヨシフの目に映る。ロシア軍の戦闘服を着た身長三メートルの巨人サイボーグ。頭部は分厚い装甲に覆われた単眼。

顔面のプロテクターを解除して、ブリザードが吹き荒れる虚空に顔を向けた瞬間、ヘリから飛び降りるニーナの姿を鮮明にとらえ、イワンは幼い声での呼びかけ、「マーツ(ママ)!!」をはっきりと囁いた。

ブリザードにまぎれて高速離脱しようとしたヘリが爆発してハデに空中分解する。イワンが対空ミサイルを撃ったのだ。炎と爆風を背中で受けて、ニーナはヘルメットに映し出される立体グリッドを脳で見つつ、前方の光景を視神経で観測して着地ポイントを瞬時に計算した。しかしそれに逆らって、空中で一回転し、折り曲げた両脚で思いっきりビルのコンクリートを蹴り、斜め向かいの信号機に両腕を引っ掛けて凍てついた道路に着地した。同時に計算した予定の着地点がミサイルで弾け飛ぶ。
それがイワンの挨拶で、同時に二人の父ヨシフの意志でもあった。

死こそ最上。

両腕を広げて立ちはだかり、ニーナを見下ろすイワン。
王の前にひれ伏すかのように屈み込むニーナ。

「今だ、撃て!!」二人の耳に響く父ヨシフの声。思わずお互いを銃口で狙うが、すぐに声がどちらにも発されたものではないことが分かった。ブリザードの分厚い雲にポツンと小さい穴が開いたからだ。月面のヨシフが表面のクレーターに秘密裏に建設した、対地球レーザー砲を発射したのだ。38万km以上の天空からの一撃。ブリザードが一瞬にして蒸発し、空が真っ白に焦げ、二人がいた地面が裂け、温泉施設として生まれ変わったオハの街を再び死の世界へ変えようと、赤黒い溶岩が血のように噴き出た。

「Fuck all!!」あたしは悪態をつき、整備されたばかりと思しき地下鉄を立体グリッドでとらえ、通風孔をグレネードで破壊してそこへ飛び込んだ。間一髪、レーザー砲の衝撃からは逃れられたが、次は溶岩から一刻も逃げなければならない。あたしはパワードスーツの動力を全開にして地下鉄の線路を地下奥深く疾走した。

イワンはレーザー砲の衝撃をまともに食らい、溶岩をもろに被っても生きていた。特殊繊維の戦闘服はボロボロになってはがれ落ちていたが、特殊鋼で造られたボディは傷ひとつ負っていなかった。
「素晴らしい・・・!!」とヨシフを賞賛する声。「核爆発のなかでも無傷の兵士を生み出すというのは決して誇張ではなかったのですな・・・」
暗闇のなかでニヤリと笑うヨシフ。「諸君、デモンストレーションはこれからだ。イワンの性能はここからだよ」

イワンが焦げた空気のなかをバッバッと走り抜けていくと、街のなかをふらふらとゾンビのように歩く住民たちが風船のように割れて血肉を飛び散らせた。新しくオハの市民として移住してきた住民たちにあらかじめ埋め込まれた金属部品が体内を突き破って、イワンの身体を覆い始めたのである。折れた骨が再び繋ぎ合わさるように、高速でイワンの背中には六枚の金属の翼が生えていき、次の瞬間にはイワンは晴れ渡った空へと飛び上がっていた。

上空には最新鋭のミグ戦闘機の編隊が指示を待っていた。その指示とはニーナがイワン殺害に失敗したら核攻撃を仕掛けよというものだったが、核攻撃にも等しいレーザー砲と溶岩に耐え抜いたイワンには意味のないものだった。即ち、偽りの指示だった。彼らもまたイワンの“部品”なのだ。超高速で接近したイワンに次々と破壊されるミグ戦闘機。それらはパイロットごとイワンの身体の再構成に組み込まれ、イワンは不気味な形状ながら巨大な戦闘機になっていった。体内で一回り大きなサイズに造り変えられるバンカーミサイル。

そのバンカーミサイルが地下鉄路線に沿って続けざまに撃ち込まれる。地面を深くえぐり、地下鉄の駅や線路を破壊し、さらに深く潜り込んで爆発。

イワンの「変身」にヨシフを中継として全世界で賞賛の声を送っていた軍事的有力者たちは、興奮がだんだん醒めていくのを感じた。兵器というより、神か悪魔のように思えてきたのだ。そんな反応を予想していたかのようにヨシフが笑みをそれぞれの感情に送り届ける。「どんな無敵な兵器でも、必ず弱点はある。それを今から私の娘が攻略してみせるのだ。そのデータを元に扱いやすい兵器を提供しよう」

あたしは弱点をつくどころじゃなかった。バンカーミサイルの猛攻をまともに食らって、地下の奥深くに埋まっちまった。手足の感覚がない。それにヘルメットがぶっ飛ばされて、口のなかがコンクリと土くれの味でいっぱいになっている。肝心なのは・・・両目が潰れていることだった。ヨシフに授かった生体コンピューターの視力が失われ、あたしの脳はもうどこにも繋がらなくなってしまっていた。

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