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2012年04月11日21:51

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「ビャンビャン麺」 の “ビャン” という字は実在する、という話。

   








湯のみ 日曜日の 「鉄腕DASH」 を見て、キツネにつままれたようだった。

   …………………………

湯のみ あの番組は、ナンダカンダ言って、「へぇ」 と思うようなものを、日本のはしばしや、海外から見つけてくる。

湯のみ 中国と韓国の麺料理対決、みたいな企画だった。

湯のみ 長瀬くんが西安 (セイアン) の

   ビャンビャン麺

なるものを見つけたのである。

湯のみ 麺じたいはビツクラするようなものではなかった。驚いたのは、その字ヅラなのであるよ。



フォト



湯のみ TV画面に映った字は、まるで、偽書で見られるような子どもの細工みたいな、浮世ばなれしたものだった。

   …………………………

湯のみ サソクのことに調べてみると、これがウソ字でもなんでもないのである。

   実在する

んであるナ。信じられないが。

湯のみ 日本人の根本的な思い違いのひとつに、こういうのがある。

   中国語は、漢字があって、コトバがある

湯のみ こういう思い違いが生まれる背景には、明治維新以来、

   日本語は、漢字を組み合わせて、ドンドコと新語をつくった

という事実がある。

湯のみ 本来は逆なのね。熟語というのは、中国人にとって、それじたい意味のある音節を組み合わせて、別の意味のコトバをつくり出す作業。

湯のみ 「自」 の意味も漠然として、「然」 の意味もよくわからない日本人が 「自然」 というコトバをつくって、ああ、これが Nature なんだ、と思うのは、最初の段階がスッポリ抜けてるの。つまり、

   1文字1文字が独立したコトバだ、という意識

ネ。日本人は、「然」 1文字だけでコトバになっている、とは思わない。

   …………………………

湯のみ 中国語は、ラテン語、ギリシャ語、英語、フランス語、日本語、韓国語などと同様に、

   音声言語

であるわけ。だいたい、言語が、そもそも、「音声言語ではない」 ということは、まず、ないのね。

湯のみ つまり、

   “ウマ” を表す mă 「マー」

というコトバがあって、やがて、これを記録しなければならなくなったときに、

   ウマの形をかたどった 「馬」 という字をつくった

わけ。

湯のみ 日本人は、みずからつくったのではない 「馬」 という字をポンと与えられたので、まるで、

   まず、「馬」 という字があって、これを 「ウマ」 と読むんだ

と認識してしまうの。

   …………………………

湯のみ 中国語にも、日本語などと同様に方言語彙がある。

   日本語にはカナがあるから、方言はカナで書けば済む

のね。ところが、中国語はそうはいかない。

湯のみ そういう場合、対処法が3つある。

   (1) 中国標準語の漢字を、別のコトバに使ってしまう。

湯のみ たとえば、「鮭」 という字は、古代には 「フグ」 を指した。中国では、「フグ」 を食べる習慣が中央の文化から消えてしまったのね。いわば廃字だった。近代以降、日本語の影響で 「サケ」 の義になった。

湯のみ 「ケチャップ」 ってコトバ。これは、福建省の方言、閩南語 (びんなんご) の 「鮭汁」 (コエチップ) と思われる。この 「鮭」 ってのは、“雑魚” (ざこ) って意味。魚ヘンで、「コエ」 って音の字を探したら、「鮭」 って字が空き家になってた。

湯のみ あるいは、四川では、古来、ジャイアントパンダを 「獏」 (モー) と言ってたのね。そりゃ、地元の人は昔から知ってたわけで、アヤツらを 「獏」 と呼んでた。もちろん、「獏」 という字はバクを指すんだけれども、四川の人の会話にバクなんか出て来なかった。ケモノヘンで 「モー」 っていう字を選んだわけ。

湯のみ 「黙」 (モー) と同音なので、おそらく、「鳴き声を立てないケモノ」 という意味だろう。四川では、レッサーパンダのことも “山のダンマリ屋” (山悶得儿) と言う。

   …………………………

   (2) 漢字を宛てないままにしてしまう。

湯のみ 中国各地の方言辞書を見ると、アルファベットの見出しのあとに、対応する漢字が “ない” とされているものがケッコウ多い。

湯のみ 実は、日常会話で使うが、書きコトバでは使わないコトバ、ってのは、意外に多いものだ。しいて必要なければ、文字がないままでもかまわないわけ。

   (3) 方言専用の文字をつくってしまう。

湯のみ これがケッコウ面白い。有名なところでは、広東語 (香港語) の

    mou5 「モウ」

がある。「〜を持っていない、〜がない」 という動詞である。

湯のみ 中国標準語では、「没有」 méiyŏu 「メイヨウ」 を使う。広東語のそれは、標準語の 「メイヨウ」 が1音節につづまったもの、という。さすれば、対応する漢字があるわけもない。

湯のみ そこで、「有」 の棒2本をトッパラッて、「ない」 という漢字をつくったのである。

湯のみ この 「冇」 という字は、昔の流行りコトバでいうと、なかなかキャッチィだったようで、中国標準語でも、

   冇 măo 「マオ」

で使われることがあるようだ。標準語には mao という発音の第3声の日常語がないので混乱しないのである。

   …………………………


フォト


湯のみ で、「ビャンビャン麺」 の 「ビャン」 という漢字も、そういう 「方言字」 らしい。いつごろからあるのかハッキリしないようだ。もちろん、『康煕字典』 のような公式の字典には見られない。

湯のみ この字は、ビャンビャン麺という食文化とともに、陝西省 (せんせいしょう) に分布するようで、中国語版 Wikipedia によれば、

   地域によって、字形に違いがある

らしい。


フォト


湯のみ Wikipedia に載っているのは 15通りの字形であり、画数は 55〜68画までさまざまである。

湯のみ 音じたいは、擬音であろう、とされる。「鉄腕DASH」 を見られた方ならば、

   麺を伸ばす作業が 「ビャンビャン」 だというのはうなずける

だろう。

湯のみ ビャンビャン麺の 「ビャン」 という字はユニコードに採用されていない。つまり、どんなに逆立ちしても、インターネットでは表記できない。

湯のみ 実際、中国のネットでは、

   biangbiang面
     ※現在の簡体字では、「面」 と 「麺」 は区別せず 「面」 とする。

と書くのが普通である。中国最大の検索サイト 「百度」 では 484,000件ヒットする。

湯のみ 日本語では 「ビャンビャン麺」 と書かれるが、正しい発音は、むしろ、

   ビヤンビヤンミエン

である。中国のネットでも、声調記号を付けて、

   biángbiáng面

と書かれることがあるが、2,760件と少ない。ただ、これで 「ビヤン」 を2声に発音すべきことはわかる。

湯のみ biáng に何か別の漢字を宛ててもよさそうなものだが、

   中国標準語に biáng という音節は存在しない

のだ。だから、そういう音の漢字も存在しない。中国語の「子音+iang」 という音節そのものが、歴史的な変化の都合で、

   l n j q x

の5子音にしか付かないのだ。後ろの3音は、日本語の 「チ、シ」 の子音と同じもので、硬口蓋化音である。

湯のみ つまり、標準語の型を逸脱した音なので、アルファベットで書かれるわけだ。

   …………………………

湯のみ 常用字形は、「鉄腕DASH」 の画面に出たもの、まさにそれである。すなわち、

   穴 月 幺 言 幺 長 馬 長 刂 心 辶

である。民間で伝えられている字釈はいろいろあるようだが、普通の日本人が聞いてもピンと来ない。中国語のセンスだからだ。

湯のみ おそらく間違いがないであろう箇所は、

   月 ← 肉
   長 ← 面が長い
   刂 ← 刀 (包丁)

といったところだろう。

湯のみ 「幺言幺」 はバラバラに解釈されるようだが、他の地域の異体字では、

   

という字形であることが圧倒的に多い。これは、

   恋 (戀) レン
   欒 ラン  ※団欒 (だんらん)

などに現れる 「レン・ラン」 という音符である。しかし、

   変 (變) ヘン

という字には 「会意文字」 の部品として使われており、これは、

   標準語音 biàn / piɛn / 「ピエヌ」
   西安方言 / piæ͂ / 「ピヤん」

であり、これが、

   biang / piaŋ / 「ピヤン」

を書き表すのに使われたフシがある。

湯のみ 音が違うじゃないか、という指摘はもっともだが、

   標準語同様に、陝西 (せんせい) 方言でも、
   biang という音節は存在しない

のであるよ。つまり、擬音であるがゆえに、意味のある語彙の “形式” の範疇から逸脱しているのである。だから、近似音 「變」 が用いられた可能性が考えられるのだ。

   …………………………

湯のみ 最後に、なぜ、「辶」 が付くのか、という点だが、これは、

   「ビャンビャン麺」 が屋台で売り歩いたもの

である可能性が指摘できる。
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