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2011年10月30日22:39

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「聖ジュネ」 Saint Genet 3.

いかなる経験も断固として個人的なものであり、
他者の経験は誰に対してであれ、彼以外の人間には役に立たない、だからこそすべての生きている社会を構成している第二の自分(アルテル・エゴ)というあの穢れた目くらましが生まれるのだ、そしてすべての人間が実際に兄弟であるのは、どいつもこいつも卑怯者ぞろいで、高慢で、
 ひとつの同じような同一の女陰や、
 似たような馬鹿女や、
 同じ、かけがえのない、どうしようもない馬鹿馬鹿しさとは
 別のものから自分が出てきたなどと思いたがるからなのだ、
 それをひとわたり見てまわるには時間はかからない、誰も彼もがほとんどの点について生まれつき同じ事柄を考えるように強いられているのだから。

アントナン・アルトー 「アンドレ・ブルトンへの手紙」


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その日は風邪で学校を休んでいた。
かなり熱が高く、布団のなかでうんうん唸りながらも、小学校の体育館の舞台、その裏の通路へ意識が還るのを感じていた。
濃い闇が横たわるなか、子供だった私は同じ子供たちと肌を重ねたのだけれど、性的快楽が目的ではなかった。
闇のなかで見せる、ほんとうの表情が見たかったのだ。
悶え顔、泣き顔、叫び顔、なんでもいいから、裸の感情が見たかった。
見せてくれたら、僕も裸の僕自身を見せよう・・・
そうでなければ、僕たちはほんとうの友達にはなれないよと言いくるめて、先生や親、大人たちに、かわいそうな聴覚障害者のあの子のお友達になってくれと背中を押された子供たちは、わけもわからずに私の前で何もかもさらけ出すはめになってしまった。

私のこうした行為は聾学校では有名だった。
幼稚部の時、お泊まり会に参加して、その家の女の子を寝ているあいだ剥いて素っ裸にし、男の子と一緒にお風呂に入ってる時は肛門に指を入れるということを無邪気にやってのけていたからだ。
そこに悪意がないだけに、また、当時の先生方のほとんどが新任だったために、それが悪いことだと叱るためにはどうしたらいいかをああでもこうでもないと親御さんたちと話し合ってるうちに・・・私は普通の小学校に移ることになった。
それでみんなホッとしたらしい。

小学校での行為は悪意と狡猾さを覚えた私の秘密主義で、おおっぴらに知れ渡ることはなかったが、カモフラージュとしてクラスメイトとともにスカートめくりに高じたり、ノーマルないたずらに耽ってみせていたので、一人の男の子が私にすっぱだかにされたと泣いても、深刻に受け止められることはなかった。
半ズボンをぺろりと下ろされ、毛の生えていないおちんちんをくわえられ、タマをモミモミされ、泣き叫ぶとともにどろりとした白い粘液をほとばしらせたのだが、そんなことをコクメイに説明出来るほど、男の子のボキャブラリーは豊かではなかった。

そして、私は男の子、女の子たちのほんとうの顔を見た上で、初めて、彼らに心のこもった笑顔を投げかけることが出来ていた・・・
その笑顔があまりにも素晴らしかったのだろう、大人たちは自分たちの教育の素晴らしさを自画自賛し、なかには感激のあまり涙を流すものさえいた。

そんなことを布団のなかで回想していると、祖母が「お見舞いだよ」と一人の少女を部屋に通した。
彼女も小学校の時秘密を共有した仲で、中学に上がってからは別々のクラスになってしまったが、放課後の図書室ではいつも顔を合わせていた。
「具合はどう?」
「まだ熱っぽいね」
「そう。これ、市民図書館に新しく入った本よ」と、布団の上に二見書房のバタイユ著「エロティシズム」を置いた。
私はすでに読破していたが、彼女の心を嬉しく思い、ただ「ありがとう」と言った。
それを受けて彼女はにっこりと微笑み、立ち上がったが、思い直したようにまた座り、今度は枕元までにじり寄って、私の鼻先に長い髪の毛をとぐろを巻くほどに垂らして顔を近づけ、ぼそりと囁いた。
「あなた、弟にまで手を出したわね」

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闇が深くなり、例の通路が深く延び・・・私たちは手を取り合って、奥へ、奥へと進んでゆく。普通は、明るい方へと進んでゆくものだが、私たちは暗い方に吸い寄せられた。そこでこそ、お互いのほんとうの顔が見られるからだった・・・

私は一度目をつむり、それから目を見開き、布団のなかで鳥のように首をかしげ、ニヤッと笑ってみせた。
「君に似て、かわいい弟さんだったよ」
それを聞いて、彼女はわっと顔を泣くかのように歪めたが、口だけは笑みに吊り上がった。それからキッと私を見据え、布団ごしに私の上に馬乗りになり、私の頬を思いっきりひっぱたいた。そしてすぐに私の首を両手で締め上げてきた。
「苦しい?苦しかったら、ごめんなさいって言うのよ。あやまんなさい!!」
私は口をぱくぱくさせた。
「何?」
彼女の手がゆるむ。
その瞬間、私は布団をはねのけ、獲物を捕らえるジグモのように、電光石火の速さで彼女を布団のなかへ引き込んだ。
そうしてホタテ貝をゆっくり食べるヒトデのように彼女に覆い被さり、ひとつずつ剥きながら、「おれは口ではあやまらない・・・ほんとうの気持ちはこうやって示すと決めている・・・ご存知のように・・・」と囁いた。
布団のなかでお互い裸になり・・・彼女の股を割って、そのなかに侵入した私は、彼女の顔が嬉しそうに咲くのを見て、彼女の心に横たわる闇を初めて感じた。

「なぜ弟が先なの?」
「なぜ私を先に抱いてくれなかったの?」
「なぜ私ではだめなの?」

さんざん甘え、おねだりし、快楽に身を委ねるがままに腰を浮かし、尻を振り、やっと満足した彼女は服を身に着けているあいだもちらちらと私を見やり、帰る時は長い時間をかけて接吻してきた。
私の風邪は悪化し、彼女も風邪で寝込んだことを知って、私はニヤッと虚空に向かって笑い、読み知ったバタイユの「エロティシズム」に浸った・・・

エロティシズムとは死に至るまでの生の称揚である・・・

私は普通の恋愛、生殖行為というものを信じない。それらに大人たちが浸る嘘くささを感じていたからだ。やつらの自画自賛する教育とやらと同じ匂いがするのが我慢ならなかった。

ほんとうの恋愛、生殖行為とは暴力的なものだ。

マラーが言うように、強姦はスピーディーな愛なのだ・・・私はアルカディアの野を駆け巡る半獣の神、パンを思い浮かべた・・・巨大なペニスをおったてながら女神たちを追い回すパン・・・あふれ出るような生命力・・・

とすれば、パンはアポロ的な、光り輝く神として崇められてもいいはずである。

パンが半獣の、悪魔的な神の姿をしているのは、暗く光り輝く、もうひとつの生命力があることを示しているのだ・・・

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かつてサリドマイドの奇形の美少女であった、不具の美少女はサキソフォンの演奏の上達ぶりを披露し、私との再会を喜んでくれた。
「あなたとはなかなか会えないけれど、私はさみしくない。あなたの“これ”が私にも生えてるから」と、私の股間を撫でてきた。
それから口と一本の手で器用にチャックをおろし、歯と舌でペニスを引きずり出すとくわえこみ、舌でなめまわしながら喉を震わせて、ほんとうの喜びの感情を爆発させてきた。

こうしたなかで、私はもう一人の私自身を見据えていた・・・
ぴあをめくりながらデートコースを考え、彼女とのロマンティックなキス、幸せな結婚風景に想いを馳せる私自身を・・・

これは分裂ではない。

彼女と普通の恋愛を望むふりをすることで、私は思いっきり裏切ってやるのだ。
私に依存させることで、思いっきり突き飛ばしてやるのだ。
そうして。
心のうちにペニスを生やすことが出来ない輩を思いっきりあざ笑ってやるのだ・・・

これがほんとうの愛のなせる業である。

私の心のうちでは、太陽はますます真っ暗に輝いていた。



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