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2011年10月24日19:06

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『大番』、そして、「だんだん」 の語源。

  







湯のみ 昨日見てまいった、千葉泰樹 (やすき) 監督の映画

   『大番』 シリーズ

は宇和島方言 (松山方言などとともに伊予方言をなす) のオンパレード。

湯のみ 『坊ちゃん』 で使われる方言に近い。

湯のみ 相手にものを頼むとき、

   「〜してやんなさい」
      ex. 「どうか許してやんなさい」

と言う。たぶん、方言では丁寧な表現なのだと思うが、東京人が聞くと、やたらに厚かましい言葉づかいに聞こえる。

   …………………………

湯のみ NHK の連続ドラマ 『だんだん』 で有名になった、

   出雲方言の “だんだん” = “ありがとう”

だけれども、宇和島でも 「ありがとう」 を 「だんだん」 と言うようだ。

湯のみ というか、「ありがとう」 を 「だんだん」 と言うのは、

   京都の遊里から生まれたコトバ

らしい。

湯のみ だいたい、このコトバは、階段などの 「段々」 を言う。そこから、

   【 段々 】
   (a) 段階、手順。 ex. 「位の段々」 (江戸初期)
   (b) 数々の箇所、くだり。 ex. 「お嘆きの段々」 (18世紀)
       → 現在は 「〜の段」 と略す。 「ご立腹の段」
   (c) ばらばらなようす。 ex. 「その身、段々にせらるる」 (18世紀)
       ※現代では使用しない。「ばらばら」 に置き換えると、文意がわかる。
   (d) 次から次へと、いろいろと。 ex. 「段々の不幸せ」 (19世紀)
       ※「いろいろ」 に置き換えると文意がわかる。
   ―――――――――― 以下は現代日本語で常用される用法
   (e) しだいに。

湯のみ そも、京都の遊里では、

   「だんだん、ありがとう」

という言い方をしたそうだ。すなわち、 (d) の用法である。「いろいろ、ありがとう」 ということだ。この 「ありがとう」 を略すと、

   「だんだん」 = 「ありがとう」

となる。

湯のみ この系統の言い方を受け継ぐ方言は、

   鳥取県、島根県、山口県、
   香川県(塩飽諸島)、愛媛県、高知県(幡多郡)、
   福岡県、熊本県、大分県、宮崎県

に見られる。中国地方、四国瀬戸内海側、九州北部という地域から見たとき、おそらく、このコトバが、

   北前船を始めとする、京大坂との海運によって運ばれた

と推測される。とりわけ、船乗りは色街のコトバに通じていた。

   …………………………

湯のみ 映画のなかで、もっとも頻繁に聞かれる方言語彙は、「がい」 である。

湯のみがい」。「がいな」 と言うと “すごい、大変な” の意で、「がいに」 と言うと “まったく、はなはだ、すごく” の意になる。少なくとも、映画のなかの宇和島人は、これを連発していた。

   「がいな」 = “すごい”
      「がいなやっちゃな」 (すごいヤツだな)

   「がいに」 = “すごく、まったく”

湯のみ 実は、「だんだん」 と同じく、これも、もともとは中央のコトバだった。つまり、昔は “標準語” だったのである。

湯のみ 落語だの、歌舞伎だのにエンのあるゴジンなら、

   げに

というコトバを聞いたことがあるだろう。

   「げに美しいのう」 = “実に美しいなあ”
   「げにあっぱれの志」 = “まったくすばらしい志だ”

湯のみ 現代語でも、まったく死語でもなかろう。文語としては使えないこともない。

湯のみ この 「げに」 というのは、

   「がいに」 → 「げえに」 → 「げに」

と訛ったものである。よくある ai → e: (→ e) という音声変化だ。もとは、漢語であり、

   我意

である。「我意を通す」 (自分のわがままを通す) に使われる 「ガイ」 である。

湯のみ 本来は、単に、「自分の心」 の意であった。

   【 我意 】
   「自分の心」
     ↓
   「自分勝手な考え、わがまま」
     ↓
   「程度がぬきんでていること」 (良い意味・悪い意味、どちらでも)

湯のみ こちらは、もともと、日本語の標準語彙であったので、北海道から九州まで、まんべんなく分布している。宇和島は、その分布地のひとつ。

   …………………………

湯のみ 最後に、1つ、主人公の 「ギューちゃん」 (加東大介) が、往生したときに、ときどき使う表現があって、これが、今ひとつ、ハッキリと意味を取れなかった。

   「お茶おあがんなはい、だ」
      ※と言いながら、降参という身振りで両手をあげる

というような言い回しだった。どこか聞きまちがえているかもしれない。「もう、お手上げだよ」 というような意味ではないか、と思ったのだが、『日本国語大辞典』 にさえ、似たような表現が収録されていない。
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