杉本一文の絵は手招く。

これらの絵に見覚えがある方は、角川文庫の横溝正史に耽溺した方だ。
少年時代、テレビで「犬神家の一族」、「八つ墓村」を観て、すっかり横溝耽美、耽奇に魅入られた私は、お小遣いをやりくりして一冊ずつ角川文庫をそろえていった。
表紙に踊る杉本一文の絵があまりにも雰囲気たっぷりだったので、母は私の本棚に近寄らなかったほどである。

現在、犬神図書館には宮田雅之の切り絵による江戸川乱歩の角川文庫と並んで、全巻揃っているのだが、杉本一文の絵を俯瞰して眺めていると、ほとんどの人物がこちらを見つめてくる上に、その視線が手招いているかのような感じを受ける。

こんなに生々しい、生気の宿った妖気が漂う絵を描く、杉本一文。
私の少年時代の昂揚は常にあなたとともにあった。