今夜は祖父が父親、つまり私の曾祖父から聞いた実話ものです。
「人魂も真っ黒いのがあるんだぜ」と祖父。
「ええ?真っ黒い人魂?何、それ?」と私。
その真っ黒な人魂と出くわしたのは、侍から僧侶になったばかりの若き曾祖父で、戊辰戦争で戦死した仲間の一人のお骨を骨壺に入れて風呂敷に包んで首からぶら下げ、仲間の実家がある多摩まで歩いていた途中のことだったそうである。
夕闇からとっぷりと真っ暗になったなかを、提灯の明かりを頼りに山道をてくてくと歩いていくと、頭の上を何か真っ黒なものが飛びすぎたものがある。
鴉かなと思ったけれど、羽音もしなければ鳴き声もしないので、はて訝しきことぞと怪しむと、また真っ黒なものがこちらにむかって飛んでくるのが夜空からの影具合で見えた。
そこで曾祖父は提灯の明かりを消し、目を夜空に慣らしながら、地面に骨壺を置きつつ、僧侶になっても懐に差していた短刀を抜いて身構えた。
すると。
いきなり顔の前にくわっと真っ黒なものが覆い被さってきたので、おのれっと短刀で切りつけた。
その真っ黒なものははらりと裂け、そこから白いものが見えた。
曾祖父は一瞬のあいだだったが、と幼い祖父に語って聞かせた。
その白いものには目と鼻、口がついてた、と。
それっきりどこかへ飛び去ってしまったので、曾祖父は提灯をつけ直し、骨壺を抱えて仲間の家へ急いだ。
家では仲間の母親が迎えてくれて、遠路はるばる骨壷を持ってきてくれたことに涙を流して感謝してくれたけれど、そこへいきなり人が飛び込んできて、仲間の従妹が頭を切られて死んだと報せてきたので、曾祖父はもしやと思って、僧侶として遺体と対面した。
その娘さんの遺体は布団のなかで頭を割られて死んでおり、曾祖父は先ほどの怪しい体験を家族に話したら、父親はさめざめと泣き、娘は生まれつき身体が弱くて寝たきりだったのでございます、それでも私どもが外出するとその様子を見てきたかのように話すので、魂が抜けるようになったのだろうと思っておりましたが、そんなあさましい姿になっているとは情けなやと打ち明けた。
そこで曾祖父は仲間の墓のなかに従妹のお骨も入れて弔ったと・・・
曾祖父は「真っ黒な人魂」と表現していたけれど、妖怪に詳しい祖父は「抜け首」だと断言していた。
私は思う。
生き霊は妄念のなせるがゆえの具現化なので、すべて怪しいものになるのは仕方のないことなのだろうと。
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