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2009年05月26日00:19

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思いが通じない、と絶望する人へ(劇団THE!CreRo 第三回公演「ニコラ」を見て)

 僕が、私が、これだけ思っているのに、どうしてあの人には
分かってくれないんだろう。どうして僕の、私の思いがあの人には
全く通じないのだろう。
 上司に部下に同僚に、大好きな異性に、自分の親に、
子供に。自分の思いが強ければ強いほど、深ければ
深いほど、悩み傷つく。後には、なかなか癒せない
焦燥感、恨み辛み、悲しみといった負の気持ちが残る。
 自分の思いなんて、どうせ通じないんだと絶望したくなる。
 そんな人にこそ、見てほしい舞台がある。
 劇団THE!CreRo、第三回講演「ニコラ」だ。
 
 主人公は、見かけはただの酒臭いおっさんだが、現役バリバリの
サンタクロース・聖ラウスと、彼のもとでサンタ見習いをやっている
女の子・ニコラの2人。
 クリスマスじゃない、1年の残り364日はサンタは何を
しているんだろう?聖ラウスとニコラは運び屋をやってました。
届けたい相手に必ず届けたいものを、消費税込みか、金利手数料は
負担してくれるのか知らないが、何とたった2000円で運んでくれる運び屋。
仕事を上手くやるごとに聖ラウスは、ニコラの持っているスタンプカードに
ハンコを押す。そのハンコがたまれば、晴れてサンタになれるという。
 
 だが、ニコラがどんなに仕事を上手くやっても、聖ラウスはハンコを
たった1個しか押さない。1個もらって喜ぶが、それ以上もらえない、と
怒るニコラ。
 
 ある日、彼らは、大財閥の御曹司が住むビルに忍び込んだ。その大財閥、
御曹司の継母が社長となり裏で汚い手を使い私服を肥やしてきたという
悪い噂がある大財閥だった。
 聖ラウスとニコラは、その御曹司に運ぶべきものを持って彼のもとに
現れた。運ぶべきものとは、川で溺れているホームレスを助けようとして
逆に自分が溺れて死んでしまった彼の父親からのプレゼントと手紙だった。
 もともと病弱だった御曹司。会社の事業拡大にしか目がない
継母には自分の思いが通じず焦燥感にかられ、父への思いを募らせながら、
自分は父のように間もなく死ぬんだと思い込んでいた。
だが、ニコラに「お前はお前」と励まされ、思いを変えるのであった。
 
 御曹司の部屋に賊が入ったと慌てた継母社長は、警備のスペシャリストだ名乗る
荒巻・内藤という怪しげな男女2人組に、ビルの警備を依頼する。
 
 ニコラに生きる勇気をもらった御曹司は、亡き父にどうしても自分の思いを
伝えたいと手紙を書いた。亡き父にその手紙を運んでもらいたい。そう思った彼は、
迷わずニコラたちに、手紙を運んでもらうように依頼した。

 御曹司の依頼を受け取った聖ラウスは、悪い予感がして、ニコラを外し、
他の仲間を連れて行った。
 だが、聖ラウスは、荒巻たちの罠にはまり、御曹司の手紙を仲間に託して、
囚われの身となってしまう。荒巻たちは、継母社長をだまし大財閥を
のっとったばかりか、この世にいる全てのサンタを消し去ろうと企んでいた。
荒巻たちは聖ラウスを人質に、ニコラたちをおびき寄せる作戦に出た。

 その頃、ビルでは勝ち誇った荒巻たちに聖ラウスは言う。「ニコラは
捨て子だった。クリスマスの夜、街の向こうでは、クリスマスだと
喜びはしゃぐ子供たちを見て、この子が可愛そうで救いたくなった」と。
「ハンコを押してあげる毎に、ニコラの喜ぶ顔を見るのが、自分の生きる
力になってきた」と。
 そして聖ラウスは断言した。「この思いは、ニコラに届かなくていいのだ」と。
 
 聖ラウスの危機に、ニコラは迷わず、荒巻たちが待ち構えるビルに向かう。

 僕は、小さい頃、祖父母に育てられた。僕は小さい頃からサンタを
信じない人間だった。クリスマスの日、自分が欲しいものと違うものが
枕元に置かれてあったのを見て「あ〜あ、やっぱりお年寄りには、今の子の
欲しいものが分からないのかなあ」なんて思っていた。
 だが、聖ニコラの押すハンコが、彼のニコラへの思いが全て詰まった
最高のプレゼントだったんだ!と思えた時、祖父母からの枕元に
置かれていたプレゼントに込められた気持ちのとてつもない大きさ、深さに気付き
祖父母が死んでから何年も経って、おののき、とてもいとおしくなってきた。

 継母の危機に、病弱な御曹司が立ち上がった。亡き父への手紙には
こう記されていた。「お父さんのもとに行きたいと思ったけど、まだ
行くわけにはいきません。だって、僕がママを守らなければいけないから」と。
気持ちが通じない、と焦燥感にかられ弱りきった御曹司の姿はそこには
なかった。例え気持ちが通じなくても、思いが届かなくてもいい、
自分にはやらなければいけない事があると確信し、覚悟した一人の男に
なっていた。
 実は継母も御曹司の事を思っていた。会社を大きくする事が御曹司のためと
思い込んでやっていたのだ。お互いの気持ちが通じた時、
継母は息子の優しさを知り、息子は継母の自分への愛情を知り、
血の繋がりを越えた深い愛情で結ばれた。

 荒巻たちのもとに現れたのは、一人の凛々しいサンタ・ニコラだった。
大好きな聖ラウスを救い出したいという一心が、ニコラを覚醒させた。
覚醒したニコラの前に、荒巻たちはなす術なく破れ去った。

 この舞台には、他にも登場人物たちの、実らぬ思いが綴られていた。
大財閥の裏を暴こうとする津軽警部、そんな彼に対する、部下・桜子の恋心。

賊に入られた責任を取らされクビになったが、御曹司の事が心配で
たまらなかったビルの警備責任者・鴨谷の御曹司への思い。

 そんな一方通行だったそれぞれの思いが、最後は、双方向となって
大団円を迎える。

 どうせ自分の思いなんてあの人には通じないんだ。僕の私の
思いなんてあの人には届きはしないんだ。そう苦しみ、悩み、
諦めかけている人にこの舞台を是非見て欲しい。
きっと背中を押してくれるに違いない。「いつか、きっと通じるんだ!」と
人の心の暗闇に、一筋の光が差し込んでくるに違いない。
 そして、自分を思ってくれる人の、大切な気持ち、思いに気付き
それらをギュッと抱きしめたくなるほどいとおしく思えてくるだろう。

(終わり)
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