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2008年03月27日00:40

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フランス版「陰獣」に寄せる期待。

2008/03/26

「京都を中心にロケが行われた江戸川乱歩原作、「運命の逆転」のバーベット・シュローダー監督日仏合作映画「Inju: The Beast In The Shadows」のポスターが公開された。主演はブノワ・マジメル、共演にLika Minamoto、石橋凌、菅田俊。」

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金沢で小料理の店をやっている親戚から、去年の秋に金沢にもロケ隊が来てて、エキストラ募集をしていたという話を聞いていたが、こうしてニュース及びポスターを見ると、何というか、複雑な気分になる。

江戸川乱歩の「陰獣」を初めて読んだのは、小学校に上がる前だったから、幼稚園の頃だった。
祖父の蔵書で、竹中英太郎の妖気漂う挿絵があったやつで(「新青年」の昭和三年八月増刊号、九月増刊号、十月増刊号)、文字が全部読めない代わり、挿絵の「雰囲気」で大体どんな話か分かった。

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「陰獣」こそは、今思うと、私の成長とともに、その姿をだんだん現してきた、私にとっては特別な、魔力を秘めた作品だった。
小学六年になって、ポオやラヴクラフトが分かってきても、まだ「陰獣」の人間関係がよく呑み込めなかった。
推理は分かるのだが、静子が、大江春泥、春泥の妻と一人三役を演じることは「現実」にありえることなのだろうか?・・・

推理とは、極端に言ってしまえば、決して理性のなせる論理的なものではない。
我が胸に踊る、原始的な恐怖を鎮めるための、「納得出来る説明」なのである。
例え、目の前に動かし難い「証拠」が横たわっていたとしても、人間というものは、おのれが納得出来る説明でなければ事実を受け入れられないものなのだ。
従って。
現在でも、茶番としか思えない見苦しい裁判が展開され続けている。

そういうわけで、私が完全に「陰獣」を理解出来たのは、恥ずかしながら、初読から十年以上を経た、高校時代だった。
理解出来たきっかけは、何かのインスピレーションが働いたとかではなく、当時つきあっていた彼女の「狂言」だった。
私は彼女とのつきあいに嫌気がさして、彼女を遠ざけていたのだが、彼女が元カレにしつこくつきまとわれているので助けてくれと言ってきたので、再び近づくようになった。
ところが、途中で彼女が私とよりを戻したいがための狂言と気づいたので、いたずら心を出した私は、彼女が作り出した架空の元カレに「変装」するということをした。
言葉巧みに、彼女から元カレの印象を引き出して、イメージを形にして、わざわざそいつが通っているという市川学園の校章とボタンを入手して、彼女の家の回りをうろうろしたりして、近所の目に入るように小細工したりした。
もちろん、郵便ポストにそれなりの「脅迫状」を投函したりもした。

我ながら、逮捕されても同然のことをしたと思うけれど、彼女をどうこうしようというつもりはなく、彼女の狂言にのってみて、彼女がどう出るかを見極めたかっただけなのだ。
その結果。

彼女は自分が作り出した元カレがどうも現実に血肉を備えたものとして徘徊しているらしいということに、意外にも、冷静だった。
それは当然で、最初からそんなものにつきまとわれていないし、心当たりがないからで、つまり、誰だか知らないけれど、誰かが元カレを演じているのだと分かっていた。
それが私だと分かるまで時間がかかったが、それまで、言葉をかえて、「元カレが学校に潜り込んできているわ」と言ってきたのには、内心苦笑いを浮かべてしまった。
彼女の意地っ張りが見てて気の毒になってきたので、頃合いを見て、私のスポーツバッグの中に校章、ボタンという「証拠」を入れて、彼女に悪いけどオレのバッグの中からスポーツドリンクのボトルを取ってきてくれないかと頼むことで、私の正体を明かす手配をした。

そこで。
顔を真っ赤にした彼女は。
私に向かって溶け出すように泣き叫んだのである。

それで、私は初めて、「陰獣」を理解出来たというわけなのだ。
あの作品は巷間で言われているように、作者の江戸川乱歩自身のカリカチュアである。
本人も自己虐殺という言葉を使って認めている。
それゆえに、竹中英太郎が後に春泥を題材にイラストレーションを発表した際は、おのれの恥部を視覚化されたようで、激怒したわけだ。
子供っぽく、それでいて残忍ないたずら心・・・それに加えて、嗜虐趣味と被虐趣味・・・
それを実際に「持ち合わせている」ことが分かった私は、私自身が大江春泥と同じだということで、人知れずニヤッと笑い・・・
それ以来、江戸川乱歩をますます偏愛するようになった。

現在、「陰獣」は読み返す度に、私は自分自身の迷宮に「あえて」迷うための悦楽だと思っている。
そうすることで、「興奮」し、何かのカタルシスを得られる・・・
乱歩自身も同じ想いで書き上げたことだろう・・・

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監督のバーベット・シュローダーといえば。
私の大好きな「ルームメイト」の監督だし、サンドラ・ブロック主演の「完全犯罪クラブ」も手がけている。
実に、江戸川乱歩向きの監督だ。

ただ。

日本人も出演し、ロケ地も京都、金沢とはいえ、外国人を主演に迎えて、果たして乱歩の世界を描けるのかどうか・・・

期待が大きければ不安も大きい。
私にとってほんとうに特別な作品だけに、観て、ガッカリしたくない。
ちなみに。
我が国で、乱歩の世界を忠実に再現出来ている人は、私が観てきたところ、佐野史郎さんだけである。
あの子供っぽさと、変態趣味の絶妙なブレンドは、やはり、ほんとうに好きでなければ出来ないことなのだ。
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