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2015年06月07日04:16

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お話の国その1

こんな実話がある。よかったらどうぞ。

『御夕食は何になさる』
ある文房具の卸業の会社に勤務する五十五歳くらいの女性がいた。
その会社では商品の入出荷を担当していた。
どんな事情があったのか二十歳過ぎの娘と二人暮らし、いわゆる母子家庭であった。
どうしい母子家庭なのかは誰も知らない。
夫とは離婚なのか死別なのかは誰も聞かないし本人も話そうとはしなかった。
ただ、底抜けに明るく振舞う姿からとっても悲しい辛い過去があるように感じられた。
娘は会社に来た事がないから会社の誰も面識はない。
しかし、娘のことは誰でも知っている。
毎日十二時半過ぎに毎日会社あてに電話をかけてくるからだ。
「母を呼び出してください」と。
携帯電話を持っていない母親への連絡はそれしかない。
それに持っていたとしても勤務中は携帯電話の使用は禁止だから一緒なのだ。
会社の昼休みは十二時から一時までなので、昼食の終わったころの十二時半過ぎ電話を掛けてくるのである。
母親はとてもおしゃべりな人、また気さくな人だった。
娘からの電話があるとその内容について仕事仲間に必ず報告するのだ。
ある日のことである。
「娘ったら『お母さま、今日の御夕食は何になさいますか?』と電話してきたのよ。そう、上品な聞き方なの。『御夕食の献立は、和食、中華それとも洋食になさいますか?』て聞くのよ」母親の喋り方もとても上品なのだ。
きっと元々は裕福な家庭の出身らしかった。
商品の入出荷は倉庫の中を走り回る仕事、ほこりにまみれ汗をかく作業。
この人には似あわない仕事のはずだ。
「それで娘さんにどう返事したのですか」と仕事仲間は尋ねる。
すると予想外の答が返ってくる。
「どれでもいいわよって答えたわ。どうせ大差ないのだから」と。
仕事仲間たちはみんな『いつもゴージャースな料理を食べ慣れていてどんなご馳走も飽き飽きしているのかな』と思うのである。
でもそれは大間違いだった。
母親は解説を始めた。
「和食って言ってもたかが『おうどん』なの」
驚いた仕事仲間は「それじゃ中華はもしかしてラーメン」
「そのとおりよ」と答える母親。
洋食は思いつかなかったので仲間は尋ねた。
「もち、スパゲティよ」今ならパスタとでも答えるのかもしれない。
きっと母子の昔の食事は、和食なら会席料理、中華なら万漢全席のような料理、洋食ならステーキを含むフルコースが普通だった感じがした。
きっと母子家庭となって生活は激変したに違いない。
優雅な会話の影に母子家庭のささやかで質素な生活を垣間見た。
でも明るく生きようとしている二人。
こんな話を聞いて仕事仲間は『粗末なはずなのに、きっと愛情だけは一杯の素敵な夕食に違いない』と思ったそうである。

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