母方の実家が赤倉温泉の旅館を経営しているので、いわゆる業界の裏話はイロイロと耳にする機会がある。
そのひとつが、「一人旅の女性は敬遠すべき」というやつなのだが、一般の方々でも知っている宿泊業界の裏ルール、コレの根拠となった事件は以下の通りである。
昭和54年、N旅館(現在も営業しているのでイニシャルにしておく)にて一人旅の若い女性を泊めて、翌朝起こしに行くと窓側の欄間にバスタオルをかけて首を吊っていた。遺書があり、それによると結婚の約束をしていた相手に裏切られて生きていく望みがなくなった・・・と。
ここまでなら警察の記録止まりである。
ちなみに旅館、ホテルにおける自殺の件数はみなさんが考えているよりずっと多い。その割に報道されていないのは、ハッキリ言って営業に障るからで、そのあたりは宿泊業界とマスコミの暗黙の打ち合わせがあるとか。
「一人旅の女性は敬遠すべき」というのが一般に知られるくらい広まったほんとうの理由は、宿泊施設にとって最大の営業妨害である、幽霊騒ぎである。
実際、首を吊った部屋に何度か現れたらしい。客が寝ていると枕元や脇に女性が立ってじーっと覗き込んでくる、ひどい時は首を絞めてくると・・・
ネットがなかった時代であるから、客があちこちに吹聴した恐怖体験が独り歩きして、一般に広く知れ渡ったのではあるまいか。
それだけでもN旅館は廃業寸前に追い込まれたのだそうである。
それでも何とか持ちこたえられたのは、同じ温泉郷の旅館、ホテルが助け舟を出してイロイロ手配したからで、畳から何やら全部取り替えて、それなりの祈祷をして、とどめに客の目の届かないところにお札を貼り、旅館側として十分な気休めになったのが効いたからである。
それが業界全体にとっても結構なトラウマになったわけで、一人旅の女性=自殺しに来た、という図式が出来上がった・・・と。
でも私はズバリぶっちゃける。
自殺しに来るのは女性に限らない、また、一人とは限らないと。破産した中年男性も首を吊ったし、家族みんなで首を吊っているのも発見された。旅館にとっては泣きっ面に蜂のような迷惑なハナシなのだが、死ぬ前に最後の贅沢、というのが温泉旅行というのは当然の選択なのである。だから、私は女将をしている伯母に言ったことがある。
「むしろ首吊りを出した方が旅館のグレードを売りに出来るんじゃない?」
モチロン、怒られた。
後、自殺者にビンカンになるあまり、亡くなった先代女将が幽霊になって出てくるケースもあるのだそうである。あやしげな客が泊まりに来たなと思ったら、決まってその客の部屋の戸がいつの間にか開いているという。
こうしてイロイロ聞いていると、むしろ幽霊の出ない旅館の方がオカシイのではないかとさえ思えてくる。人はみな安心出来る場所で死ぬのだ。そう心構えられないヒトは泊まりに行くべきではないと言えよう。
私はどこそこにお札を貼るのかも聞いて知っているので、私自身が泊まりに行く時は必ずチェックしている。今まで6回発見した。どんな場所か、そして出る旅館、ホテルはどこか。こっそり知りたい方は是非。
最後に。
幽霊ではなくて、宿泊施設の人間そのものがヤバいのは、長野は志賀高原、山田牧場にあったリンゴ農園兼民宿で、小学校の卒業記念に一人旅で泊まった経験をもとに「噛みつき農園」を書いた。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=187932278&owner_id=1640816
泊められた部屋がでっかい仏壇の間に続く和室で、その和室のカベを遺影がぐるりと回っているという不気味なところであり、経営者の老夫婦は明らかにどこかオカシなところがあった。今思い出してもゾッとする。
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