2016年ラダ誕作品。
誕生日前日、カノンとデートの約束をしたラダマンティス。しかし彼の前には同じ格好をしたサガとカノンが現れ、「どちらが本物のカノンか選べ。選んだ相手とデートだ」と言う。果たしてラダマンティスが選んだのは…。
基本はラダカノでロスサガですが、最終的に仲良くなるのは双子でラダマンティスが可哀想なことになります。
アイオロスがサガとカノンの区別がつかなかった話はこちら。『双子の見分け方』
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=5898889
ラダマンティスが可哀想で誕生祝いっぽくないので、後で普通のラダカノな後日談を上げます。
『確率二分の一の選択』第1話
十月二十九日。冥界三巨頭の一人にして天猛星ワイバーンのラダマンティスの誕生日の前日である。
その土曜日、彼は地上に出て、アテネ市のプラカ地区にあるカフェニオンでコーヒーを飲んでいた。
彼の恋人であり、双子座の黄金聖闘士と海将軍筆頭・海龍を兼任するカノンと、その日一日デートをし、夕食を共にし、日付が変わってラダマンティスの誕生日になるその瞬間を、ホテルのベッドの上で二人きりで甘く迎えようと約束したからである。
プラカ地区は、アテネの中心部であるシンタグマ広場の南西、アクロポリスの北から東に広がる地区で、伝統的な街並みが残るアテネ観光の中心部である。この季節になっても数多く行きかう観光客の群れを見ながら、ラダマンティスはオープンカフェでグリークコーヒーをすすっていた。グリークコーヒーは、粉末にしたコーヒーに砂糖と水を加えて煮出して煎れるコーヒーで、上澄みの部分をすすって飲む。底にはコーヒーの粉末が残るため、これでコーヒー占いをやったりもする。シロップの塊かと思うほどの極甘のバクラヴァをちびちびと食べながらラダマンティスがグリークコーヒーを飲んでいると、やがて待ち人がやって来た。
「待たせたな、ラダマンティス」
その声に振り向き、そしてラダマンティスは固まった。
そこには、まったく同じ姿、同じ格好をした男が二人立っていた。
光の加減で青みがかって見える不思議な色合いをした癖のある長い銀の髪、切れ長で涼やかな薄い青色の瞳、しみやそばかすなどまったく見えない滑らかな白皙の肌、均整の取れた長身。ラダマンティスが愛するカノンがそこにはいた。ダークグレーのスーツに白のシャツ、黄色の地に白い小紋が浮かんだネクタイを締めて、バーバリーの薄手のコートを羽織り、いかにも英国紳士の体裁をしたラダマンティスに対し、カノンはアイボリーのジャケットにライトグレーのシャツ、ミディアムグレーのパンツを合わせており、ネクタイは締めていなかった。コートもなく、ラダマンティスよりずっと軽装の印象を与える。
問題は、それと同じ姿をした人間が隣にもう一人いたことだ。
「カノン…サガ…」
ラダマンティスは茫然とつぶやいた。それが「サガ」であり「カノン」であることは分かるのだが、まったく同じ服装をしているため、どちらがどちらか判然としないのだ。道を行く人々も、鏡の中から出てきたような同じ格好の双子に珍しそうにちらちらと視線を送っている。
「いや…その姿…どうした?」
ようやくそう問うたラダマンティスに、双子たちはそっくりな、というよりまったく同じな、魅惑的な微笑を浮かべて言った。
「実は先日、大変なことが分かった」
と、右側の「カノン」が言う。
「アイオロスの奴、『サガ』と『カノン』の見分けがついてなかったのだ」
と、左側の「カノン」が続ける。
「で、そこで問題になった。ラダマンティスの奴は果たしておれたち双子の見分けがついているのか、とな」
「それで試してみようということになって…」
「ラダマンティス、どちらが本物の『カノン』か、選べ。選んだ相手が、今日のデートの相手だ」
双子たちの説明を聞き終わったラダマンティスは、口をパクパクとさせた。
「え、え、え…?」
改めて同じ姿をした双子たちを見る。そして彼に見分けは…つかなかった。
普段ならカジュアルな格好をしているのがカノンでフォーマルな格好をしているのがサガだとか、眉間にしわを寄せて小難しそうな顔をしているのがサガで皮肉っぽい笑みを浮かべているのがカノンだとか区別がつくのだが、今の二人は全く同じ格好をして、まったく同じ表情をしていた。双子とはいえ図ったようにここまで同じ表情ができるとは…と、ラダマンティスは変なところで感心してしまった。
「いや、しかし…それで仮におれが間違いなくカノンを選んだとして、おれに何か利点があるのか?」
「おれたち双子の区別がついたら、サガはおれとお前の交際を認めてもいいと言っている」
「……」
別にサガに交際を認めてもらわなくても困りはしないのだが…とラダマンティスは思った。しかしカノンが執心してやまないあの双子の兄に、二人の仲を認め、祝福してもらえるのなら、それはそれで嬉しい。何しろことあるごとに弟に対して「あの冥界の眉毛と別れろ!」と吹き込んでいるのが、今のサガの現状である。
『し、しかし、これはまずい!』
ラダマンティスは困った。
二人の見分けがつかない、と言えば、カノンは落胆し、怒るだろう。だがもし確率二分の一でサガのほうを選んでしまったら…やはりとんでもないことになる。
二分の一の確率で、天国か地獄が決まる。
ラダマンティスの背に冷や汗が流れた。
しかし双子たちは同じ微笑を浮かべたまま、じっと彼の選択を待っている。
二人の顔をかわるがわる眺め、生唾を飲み、ついにラダマンティスは決断した。
左側にいた「カノン」の手を、ラダマンティスは握ったのだ。
「おれでいいのだな」
「…うむ。お前がカノンだ」
すると右側にいた「サガ」は二人に向かってにこやかに笑い、踵を返した。
「では、カノン、ラダマンティス、良い一日を」
そうして「サガ」はその場を去っていった。
「では、ラダマンティス、行こう!」
「カノン」は明るい笑みを浮かべ、ラダマンティスの腕をとって彼を引っ張って立たせたのだった。
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