歌詞づくりに煮詰まっているというミナコのために祖父がコレクションした「性歌集」を貸し出した。どどいつから替え歌と古今東西のエロ歌を集めたもので、幕末から昭和初期までドッサリある。あの南方熊楠が好んで歌っていた安珍清姫の歌もある。
元々祖父は少年の頃から遊女、芸者買いをしていた人で、ヤル前の飲み食いの際盛り上がるための歌を聞き覚えていた。
軍歌の替え歌もあるのだが、軍歌を聴いたことのないミナコには何だか分からなかった。
ぺらぺらとめくっていって、おっと思ったというのが以下の歌。「炭坑節」の替え歌である。
♪あなた一体全体どこの人 ヨイヨイ 顔は福岡目は久留米
足は長崎手は肥前 心は門司気は佐世保 サノヨイヨイ
♪伯爵夫人となるよりも ヨイヨイ 月の差し込むあばらやで
主さんの腕にほんのりと 私ゃ抱かれて暮らしたい サノヨイヨイ
♪豆で赤いのは小豆まめ ヨイヨイ 豆で長いのはうずら豆
豆で高いのは芸者まめ 豆で安いのはカカのまめ サノヨイヨイ
「あるじさん?」とミナコ。
「ぬしさんと読むんだよ」と私。
「芸者まめとかカカまめって何?」
「クリトリスのことだよ。芸者のクリトリスは高いけれど、女房のクリトリスは安いって歌ってるんだ」
「へぇー」
「炭坑節」の替え歌はものすごく流行ったようで、東京に入ってくると九州のローカルカラーがなくなり、単なるエロ歌になっている。
♪一部屋二部屋三部屋越え ヨイヨイ たどりついたる四畳半
中では二人のひそひそに 外じゃくしゃみのかみ殺し サノヨイヨイ
♪親の前でもはばからず ヨイヨイ ひろげてさすのが蛇の目傘
落としてもちゃげるはねつるべ 流して気をやる筏乗り サノヨイヨイ
♪着くよつくつく何がつく ヨイヨイ 港みなとに船が着く
お寺の和尚さん鐘をつく わたしゃあなたにからみつく サノヨイヨイ
♪奥でするから奥という ヨイヨイ サイサイするから妻という
つまんでするから妻という 抱えてするからカカという サノヨイヨイ
「歌うなら人間椅子みたいな感じでやりたいな!」
「それならこんなのはどうだい」
♪因州因幡の鳥取で
鹿野大道の真ん中で
娘三人出会ひしが
先なる娘が十六で
中なる娘が十七で
あとなる娘が十八で
先なる娘のいうことにゃ
はじめて殿御と寝た夜さは
三つ目錐でももむがよに
きりりやきりりといとござる
中なる娘のいうことにゃ
はじめて殿御と寝た夜さは
朝倉山椒をかむがよに
ひりりやひりりとようござる
あとなる娘のいうことにゃ
はじめて殿御と寝た夜さは
麦めしとろろを食うがよに
とろりやとろりとようござる
おさんやれ
祖父いわく、花柳界では有名な歌で、君が代の次に大人は知っていなくてはならないというほどのものであったとか。
「三味線でベンベン弾きながら歌うわけだよ、それをギターに換えて人間椅子みたいに歌ってみれば面白いと思うぜ」
「いいね〜」
このように。
囃すということ。
囃すための言葉づかい。
石川啄木の考えたきれいな歌を歌うより、生命力の奔流を感じさせるエロ歌の何という力強さ。へヴィメタ、パンクの音に乗らないわけがないのだ。
祖父は沖縄のエロ歌まで知っていて、夜道を歩いて小さかった私の手をひきながら歌っていた。何を歌っていたのかはほとんど忘れてしまったが、チンダラ〜とデカイ声を張り上げていたのは覚えている。沖縄の言葉で「かわいい」という意味なのだそうである。
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