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2012年09月15日17:09

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800 第36号 「ラミア」掲載記念 ニーナシリーズ 「オールドゲーマー」初掲載


さびれたゲームセンターだ、とあたしは思った。でもハヤリの遊び場なのだ、ジョブズと同じ時代を生き、彼より長生きしちまっている老いぼれハッカーたちにとっては。
それぞれお気に入りのテーブル・ゲームを前に身を沈め、持ち込んだノートPCにつなげたお手製のアダプタと基板をファックさせ、ハッキングそのものをゲームと同調させているのだ。例えば端っこでセガのテトリスを慣れた手つきで、かつ緊張感に強張った顔つきで操作しているジジイは、ゲームオーバーを食らったら、サイバーポリスに全バレする前に自分の情報ごとタマもバーンアウトするように、ノートPCと心臓ペースメーカーを連動させている。
老いぼれたら、ストレスのたまる単調なハッキングより、若い頃夢中になったゲームで派手に、デンジャラスにやりたい・・・自分で開発したソフトで他人の口座からカネをくすねたり、軍用スパコンから機密情報を引き出したりするのを、落ちゲー、シューティング、格ゲーにシンクロさせて、全クリアして今日を生き延びるのだ・・・
愛すべきオールドメン。あたしの獲物はあたしの情報をSNSなどへ晒す寸前の老いぼれハッカー。あたしに撃ち殺されるか、ファイアーウォールを乗り越えてゲームをクリアするか。発信元はここだってことは突き止めたけれど、どいつがそうなのかは分からない。みんな必死こいてゲームに集中している。
あたしの脳神経、視神経に繋がった内蔵端末は、ネット空間のなかで検索されるキーワードを超高速で拾っていく・・・「ニーナ」・・・「ミラーサングラス」・・・「金髪」・・・「琥珀色の瞳」・・・「ロシアの魔女」・・・「真っ黒な革ジャン、革パンツ、革ブーツ」・・・「旧ソ連軍が開発した生体コンピューター」・・・氷(アイス)が張った川のなかをそれらが勢いよく流れていく様を眺めて、あたしはチッと舌打ちをした。
アイスが溶ければ一巻の終わり。あたしは晒しものになって、この世界でやっていけなくなる。
あたしは目の前のジジイを見た。パックマンを何周もこなし、手元のスマホでエロサイトから鍵のかかったプレミア映像をサクサク落としている。こんなのをマジでやってるのはイマドキ誰もいない。見せかけのブービートラップで、手柄にアセッたチェリーな捜査官がたやすく引っかかる。ホームレスを偽装させておいて、自分はもっとデカいものを狙うのだ・・・と、あたしは札を両替機でコインに崩し、ゲーム機の前に陣取った。アーミーナイフでカバーを外し、基板を手製のアダプタにつなぎ、ネットとゲームを連動させる。ゲーム内容はゲームセンター内での通信式の対戦シューティングだ。画面の右側でプレーして、左側に対戦相手のプレーが同時進行するやつだ。ゲームを始めてしばらく撃ちっぱなし。
そのうち、一人が挑戦してきて、お互いショットとボムを繰り返してサーバーの探り合い。あたしは内蔵端末の処理速度に緩急をつけて、相手の追跡を軽くあしらってゲームオーバーに追い込む。どこかで心臓のあたりをかきむしって倒れる物音。ロング・グッバイ、ハニー・ダーリン。相手の情報にはあたしの名前なし。ミラーサングラスの裏側ではアイスが溶けかかっている。あたしはにやっと笑う。今度はチャレンジャーなし。あたしはひたすらショットとボムのボタンを押し続け、目指す相手を見つける。考えてみればどうってことはない。ゲームとハッキングが同調しているなら、ステージを数多くクリアしているやつが一番ヤバイのを追っているやつなのだ。

あたしがハッキングしたのは、ゲームセンターの監視カメラだった。時代ものだが、パソコンで監視している以上、侵入するのはわけない。カメラは全部のゲーム機をバッチリ映していた・・・さっきくたばったジジイは訳知り顔の他のジジイたちに抱えられてどこかへ運ばれていくところだった。この騒ぎのなかでもみんなひたすらゲームの真っ最中。人は人、俺は俺。そういうこと。さて、このなかで一番点数を多く稼いでるのはと・・・端っこのテトリスをやってるジジイだった。あ
たしは基板からアダプタを外し、ゲームを放置しつつ、ゆっくり立ち上がった・・・サイレンサーを装着したブローニングハイパワー拳銃を差したケツに手を伸ばしつつ・・・アイスにひびが入ったのを見た。その瞬間、誰かが小さくガッツポーズを作ったのを感じた。イエス!!あたしはテトリスのジジイをまっすぐ見据えたまま、ガッツポーズのジジイを撃った。脳天を撃ち抜かれてゲーム画面に顔面をくっつけて死んだ方を見ると、操作の手から離れた機が敵機の弾幕を浴びて撃墜され、ゲームオーバーの画面になったところだった。点数を見てみるとテトリスの次に多い点数だった。ふむ、とあたしは拳銃をケツに戻し、ジジイたちが死体を片付けている間、基板につながれたノートPCを操作し、あたしの情報を新しいアイスで覆った。分厚く、深く。
全てが片付くと、あたしはテトリスのジジイのところへ歩いていった。ジジイは死んでいた。「もう五日になる」と後ろの誰かが言った。「やっこさんにはゲームオーバーなんてねえんだ。情報はなんにも盗んでねえ。空のファイルを抱えたまま、やっこさんは軍用スパコンの追跡をかわし続けている・・・死んじまった後でも・・・」水分を失った眼球はテトリスがハマリ続ける画面を見つめ続け、ひからびた唇にはいたずらっぽい微笑み。こわばった手と指がスティックを動かし続けているのは、ノートPCにつなげた低周波治療器のおかげだった。筋肉を的確に刺激して、次々と降りてくるのをうまい具合にハメていき、パッと消滅させる・・・そうすることで、この瞬間も、衛星をフル回転させた軍用スパコンの追跡をうまい具合にかわす・・・。
「やれやれ」とあたし。「あんたが相手じゃなくてラッキーだったよ」あたしはゲームセンターから消える。
愛すべきオールドゲーマー。ゲーム画面に人生以上のものを見つけちまったなら、後に残るのはハイスコアだけ。
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