メキシコ・シティ、プラザ・デ・トロス。
無人のモニュメンタルを借り切っているのは、ジュー・ハナブサ。脇に従えているのは、ジョルジュ・デュヴァリエ。
巨大な皿の底の真ん中に突っ立っているジューは、華々しいマタドール、闘牛士の衣装に身を包んでいる。
手にギラリと輝くサーベル。
「あれだけの罠で、エンゼル一人しか取れなかったというのは、多少・・・ムダ使いが過ぎやしないかね?」とジュー。
「日本には一石二鳥という言葉があるそうですな?一人を逃したのは痛かったですが、墜落事故として、我々の計画の詳細を知りすぎた政界、財界の面々をまとめて消したのは、エンゼルの死と同じくらい価値があるのですよ」とジョルジュ。
続けて、「そのおかげで警察、検察も動きましたが、それも計画のうち・・・」
ゲートが開き、全裸のサングラスの男がハーレーにまたがって、こちらへ突っ込んでくる。
手は手錠でハンドルに固定され、胴体、足も同様に固定されて、走り続けるバイクからは降りられず、停められない。
「Help...Help me!!」
喚き続ける男、ジューを見るなり、アッと叫び声をあげ、ジューの眼前でカーブしてかわす。
「お、おまえは!!
カイザー・・・」
ジューは少しも動かなかったのだが、サーベルを布きれで拭くと、布きれには真っ赤な血がベットリつく。
スローモーションのように、男の首が胴体から滑るように落ちて、ゴロゴロと転がり、首なし死体を乗せたハーレーはそのまま壁に激突して炎上してしまう。
ジュー、男の生首に近寄って、サッカーボールに足を乗せるようにして踏みつけ、サーベルの刃を太陽光に照らしてチェックする。
「出世はしたくないもんですな、レーザー警視・・・いや、レーザーFBI長官・・・あんたは飛葉の入国を恐れるあまり、一時はうまく隠れていたが、そのうちもっと強い権力を持つのが一番と考えて、お得意の汚い手段で駆け上った・・・おかげで私に見つかったわけさ」
くるりとジョルジュの方を振り返り、「さよう、我々の組織は決してブタのように肥え太るのが目的ではない・・・敵をもっと増やして、この地球上に闘いの場を増やすことが目的だ・・・それでこそ、我が民族、日本人は本来の闘争本能に目覚めるだろう」と言い放つ。
「昭和暗殺隊の訓示ですな・・・ワイルドはそのための格好の生け贄・・・私たちの復讐、理想が同時に達成出来ることで、まさしく一石二鳥というわけですよ」とジョルジュ。
「しかし、罠から逃げたキツネは完全に息の根を止めたいものだ・・・」
「水戸は現在、ショックのあまり放心状態、加えて、酒に逃げてアル中とのこと・・・廃人はキツネの価値がありませんナ」
「それでは次は?」
「
クロス!!」
ゲートから走り出てきたハーレーに乗っているのは、全裸のロシア人女性。ニェット(いや)、ニェット!!と叫び続けている。
「あれはクロスの恋人のひとり、エリカ。ロシア人で、刑事局の部長・・・おまけに、父親が政界の大物でしてナ、現在オプシヌプリ湖サミットにて籠城作戦を指揮しているラーキン大統領に対して、反大統領の一派をまとめているのです」
「なるほど、今度の罠は仕掛けがいがあるだろう?」
それにニヤッと笑うジョルジュ。
プラザ・デ・トロスの青空に血しぶきをあげて舞うエリカの生首。
北海道、オプシヌプリ湖。
サミット会場が遠く望めるホテルに到着したワイルドの面々。
ロビーではモニターの前に、客もスタッフも釘付けで、籠城のライブ中継を固唾を飲んで見守っている。
画竜がリンリンとベルを鳴らしても、反応がないので、バン!とベルを手のひらで叩いて、やっとスタッフを呼び寄せる。
「すみません・・・ご予約された方ですか?団体?団体名は?」
「ワイルド7!!」
その瞬間。
飛葉とクロスは周囲の空気に違和感を感じた。
ロビーに固まってる面々は動かないが、明らかにワイルドの名前に反応した者がいたのだ。殺気を込めて・・・
「ハイ、承っております。キミたち、案内して差し上げて!!」
一見してナヨナヨしたバイト青年と分かるボーイたちが、メンバーたちの荷物を運ぼうとするが、画竜のデカイ荷物だけは重くて運べない。
飛葉に耳打ちされた画竜、ニヤッと笑って、「重かろう・・・何たって、M249だからナ」と言い放つ。
ボーイの一人はガンオタクらしく、「スゲー!!やっぱり、思った通りだよ!!ウエスタンアームズの新商品かな?お客さんたちもサバゲーしにきたんで?」と騒ぐ。
画竜、ヒゲをクスッと揺らし、「ウン、あそこでナ」とサミット会場を指さす。
その瞬間、また殺気。
飛葉にクロス、覆い被さるように密着し、「間違いねえ。いやがるぜ。どうする?」と囁く。
飛葉、「部屋代わるか?」とニヤッと笑う。
クロス、「バカ言え、どこにいたって同じだろうが。ボーイ!!俺はダブルの部屋だ!!」とやけくそ気味に言う。
「エ・・・俺たち、シングルなのに、クロスだけダブル?」と天田。
「悪いナ、コレと一緒なのサ」と小指を立てるクロス。
エレベーターにボーイと乗り込みながら携帯を取り出してニヤッと笑うクロスに、天田、中指をおったてて、「くそ、イヤミな野郎だぜ!!」と悪態をつく。
飛葉に、リープヒェン、クロスと同じように密着して、「私たちもダブルにしたいわネ」と囁く。
困った顔をして引く飛葉。
東京、K医大病院。
ベッドに横たわる老人を見舞っている草波。
老人は成沢である。
「秘熊の次は英重太郎か・・・あの男の父親は中野学校の教官でな、特高ともつながりを持っておった・・・キミと同じで、秘密警察のボスだったよ・・・」と成沢。
皮肉をさらりとかわして、草波、封筒の中から極秘ファイルを取り出す。
「名前は、
英重臣。戦後は、吉田内閣、GHQにも属さない秘密組織として、右翼の大物としての顔を持ちつつ、世界各国にスパイを派遣して、非合法活動を行い、国益を装いながら、その実は私腹を肥やしていた・・・」
「よく調べたな。おかげで色々思い出してきたよ・・・海外班の非道さに当時の外務省の役人が色々手を打ってな、根本から正義の秘密組織に生まれ変わることが出来たのだ。それが、J・・・」
「JJ機関」
「そうだ。国内班は自己解体して、あちらこちらの実業家、政治家に姿を変えたが、私がキミのワイルドを全面的に支援したのは、彼らが英の亡霊たちを始末出来ると期待したからなのだ」
「そうですね。遠井弁護士も、秘熊も英の秘密組織の一員だった・・・そして、成沢さん、あなたも・・・」
「そこまで調べたのか・・・もうすぐ死に行く身だ、すべて話そう。そうだ、私はかつて英の部下だった。同僚が遠井弁護士だった。だから、秘熊がクーデターを起こす際は、当然、私も誘われた。拒否は出来なかった。キミを組織に取り込む際の条件として、ワイルド全滅を提案したのは私だ。ワイルドの手では始末が不可能なぐらい膨れ上がった組織相手に、信用を得られるのはそれしかなかったのだ・・・。キミは当然、拒否してワイルドとともに運命をともにするだろうと思った。しかし、キミはあっさりワイルドを見捨てた・・・これは予想外だった。それで私は恐ろしくなって、キミから手の届かないところに身を隠したのだ・・・」
「当時はあなたをずいぶん恨みましたよ。でも今は恨んでも仕方がない。英重臣についてもっと聞かせて下さい、彼の秘蔵っ子だった昭和暗殺隊の隊長、秋戸十次郎についてもね」
「二人とも死んだのに、なぜそんなに聞きたがるのかね?」
「二人とも生きているからです・・・まず、秋戸十次郎が英重臣の孫息子だというのは本当なのですか?」
コンコンとノックされるクロスの部屋。
シャワーを浴びて、バスローブ姿のクロス、コルトウッズマンカスタム357マグナムを手に、ドアの横に立ち、「どうぞ」と言う。
ドアが開き、オリンピック選手として参加している中国のフィギュアスケーターが現れる。
「ミシェル・・・香港返還以来だ」と拳銃をベッドに置きながら、両腕を広げるクロス。
「こんなに待たせて・・・罪なヒトね、あなたは・・・」とミシェル、毛皮のコートを脱ぐ。コートの下はもうすでに全裸である。
外の雪が積もる薮の中からクロスの部屋を暗視スコープで覗いている画竜、マック、天田の三人。
「信じられねえ!!金メダリストのミシェル・ワンだぜ!!」と天田。
「いいなあ、クロス・・・」とマック。
「待て!!全員に告ぐ、銃を携帯している者三人、クロスの部屋に向かっている・・・!!」とモニターを見ながら無線連絡する画竜。
廊下のスプリンクラーの横に取り付けられた超小型監視カメラを通して、ロシア製の防弾ベストを着けた男たち三人が、マカロフ拳銃を手にじりじりとクロスの部屋に接近しているのが見える。
一人がドアノブのあたりを撃ち抜き、もう一人がドアを思いっきり蹴り飛ばそうと下がった瞬間、ドアにマグナム弾の大穴が開き、一人の頭が破裂する。
反射的に伏せる二人だが、廊下の両端に現れた馬力と飛葉にそれぞれ頭を撃たれて射殺される。
「大丈夫か?」とクロス、自分の後ろでガタガタ震えるミシェルに声をかける。
震えながらこっくり頷くミシェル。
そこへコートを手に近寄るリープヒェン。
「キスして!!キスで震えを止めて、クロス!!」と叫ぶように言うミシェル。
クロス、全裸のミシェルを抱き寄せてキスをする。
それを見て、ニヤッと笑う面々。
その瞬間。
ミシェルの唇から自分の唇を離したクロス、飛葉、馬力、リープヒェンに向かって、「伏せろ!!」と絶叫する。
自分も飛んで、転げ回り、ウッズマンカスタム357をミシェルに向けると、眉間を狙って撃ち抜く。
次の瞬間。
爆発するミシェルの身体。窓ガラスが吹っ飛び、部屋中が血肉のシャワーでベッタリになる。
「麻酔の匂いがした・・・来る途中で眠らせて、口から胃の中に爆発物を仕込んだんだ・・・香港でよく使われた手口だ」
クロス、そう吐き捨てて、フロントに電話をかけ、「部屋が汚れた。他の部屋を頼む。シングルでな」と言う。
「ひどい!!あなたの恋人だっていうじゃないの!!恋人がこんな死に方をして、よく平気でいられるわね!!」と詰め寄るリープヒェンを制しながら三人そろって部屋を出る飛葉。
「女ったらしってみんな冷血漢なのかよ、ナァ飛葉ちゃん」と馬力。
「よせ、二人とも」と飛葉、「恋人だからこそ、クロスは爆発する前に撃ったんだ・・・」
そこで、ハッとする二人。
血まみれの部屋に一人立ちつくすクロス。
その背中は寂しげである。
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