我が師匠は東日本大震災の翌年、2012年ごろに金沢へ来られた。連れ合い(建築家、大学教授)の転職に伴ってのことである。師匠自身は彦根(滋賀県)から東京藝大、ミュンヘン音楽大学という経歴で、ご夫婦とも金沢には縁もゆかりもなかった。
金沢へ来られて家を建てたタイミングで、自分が門下生になった。2016年である。同年10月、師匠と3人の門下生で第1回のコンサートを開いた。それから毎年続いて、今年で10回目になる。最初は4人だったのが、今では20人ほどが歌う。
金沢でも近年は声楽の門下生コンサートが増えてきた。昔から続く北陸ヴォーカルグループはアマチュアとプロを交えたコンサートをしていたし、個人のリサイタルもあったのだろうが、ピアノの発表会のような声楽の門下生コンサートは、それほど多くなかったように思う。まあ、自分が興味がなかったから知らなかっただけかもしれない。
今では、この師匠の門下は金沢では最大派閥になった。考えてみれば、金沢とは何の縁もないところから来た音楽家が、10年ほどでこれだけの門下生を育てたことになる。
金沢は、外から来た人を「旅の人」と呼ぶ閉鎖的な土地柄である。先日、妻と「ここで頑張っているのは、皆、他から来た人だね」と話した。見方を変えれば、外から来た人を受け入れる柔軟さがあるとも言えるが、逆に、自分たちから外へ発信する積極性に欠けるとも言える。
「百万石気質」と揶揄されるのも、まあ、さもありなんである。そんな土地で、旅の人が根を下ろし、弟子を育て、その弟子たちが歌っている。今年はその10回目のコンサートになる。
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