最近、合唱をしている人で、声楽を個人的に習っている人が増えたなと思う。昔は、声楽を習っていると、むしろ「アンサンブルに合わないから邪魔だ」と言われていた。
実際、自分が知っているソプラノは東京藝大の声楽科に現役で合格したのだが、高校時代、合唱部の顧問からかなり厳しく指導され、円形脱毛症になった。声楽的に立派な声を出すことより、合唱の中で声をそろえることを求められていたのだろう。今から考えると、ずいぶん極端な話ではある。
今回の門下生コンサートにも、ベテランのバリトンが出る。以前、「冬の旅」を全曲暗譜で歌った人で、自分も高校時代から知っている。どうやら今春から、再び声楽のレッスンを始めたらしい。彼とは20年以上前に一度、特別合唱団で一緒になったことがある。自分の後ろで歌っていたのだが、そのとき「ええ、こんな声で歌うのか。邪魔だな」と思った。普段は合唱団には所属していなかったと思う。
そんなことを思い出したのは、昨日のモーツァルト「レクイエム」の練習で、最後に今度のステージで歌う抜粋3曲のソプラノ・ソロを決めるオーディションがあったからだ。今回は1人だったが、4、5人が手を挙げたらしい。自分はたまたま片付けで残っていたので、そのオーディションを聞いた。
歌った人は、深みのある柔らかな声で、なかなかいい声だった。少し音程がふらついたところはあったが、まあ、緊張すればそれくらいのことはある。
一緒に残っていたテノールに「いい声だね」と言ったら、彼も同意した。その夜、その話をLINEに流した。
「彼女は声楽を習っているんだけど、少し音程が悪くて云々」
「声楽を習っているのに?」
「(自分が)上手だけど。意外にそうでない人もいるみたいですよ」
そうか。自分は、声楽を個人的に習えば、みんなそれなりに上手くなるものだと思っていた。考えてみれば、当たり前の話なのかもしれない。声楽の先生に習ったからといって、全員が同じように上達するわけではない。レッスンは歌を上手くするための場所ではあるが、歌そのものを自動的に上手くしてくれるわけではない。
それにしても、昔は「声楽を習っているから合唱では邪魔」と言われ、今は「合唱をしている人も声楽を習う」ようになった。その間に、合唱と声楽の関係もずいぶん変わったものだ。
……もっとも、20年以上前に「こんな声で歌うのか。邪魔だな」と思っていた自分が、今では声楽のレッスンを受けているのだから、人のことは言えない。
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