本番直前のゲネプロで耳がおかしくなったのは、寝不足と緊張によるものだと思っている。だが、実はもう一つ、心当たりがある。
本番前、控え室で昼食を取りながら雑談していたときのことだ。バスの一人が、別のバスに向かって言った。
「『張り合ってやる』って書いてましたね」
「書いたけど、昨日のリハーサルですぐに諦めました(笑)」
どうやらSNS、たぶんX(旧Twitter)に、東京混声合唱団から助っ人として6人、そのうちバスが2人来て、彼の隣で歌うので、「いっちょ見せてやる」と書いたらしい。自分はその投稿を読んでいない。
その会話を聞きながら、思わず笑ってしまった。口には出さなかったが、「よくまあ、そんなことを考えるもんだ」と思った。練習で聞いていても、プロに張り合えるような声ではない。というより、自分から見ても、まだまだ自分のレベルにも届いていない。
身の程知らずと言ってしまえばそれまでだが、そもそもプロにきちんと声楽を習った経験がなければ、プロの声がどれほど違うのか、実感として分からないのだろう。とはいえ、自分も長いこと「合唱のプロって、何だ」と思ってきた。合唱はみんなで歌うものなのだから、個々の声の優劣を競うものでもない。だからこそ、その気持ちは分からないでもない。だから余計に、おかしかった。
ところが、前日のリハーサル後、指揮者の指示で、東京混声合唱団のバスの人が、ソリストの位置関係の都合から、自分の隣、前列に移ってきた。結果として、自分も張り合ってしまった。
寝不足と本番前の緊張が大きかったことは間違いない。ただ、そこに「プロの隣で、ちゃんと歌わなければ」という力みも加わったのだ。
「プロに張り合うなんて、よくやるもんだ」と笑っていた自分が、いざプロの隣に置かれたら、しっかり力んでいる。人のことは笑えない。耳までおかしくして、それを思い知らされた。
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