将棋の話である。今回は詳しい棋譜の解説はしない。
第67期王位戦(中日新聞、伊藤園)七番勝負の第4局。藤井聡太王位対伊藤匠二冠の対局である。第4局を迎えた時点では藤井王位の2勝1敗。ここで勝てば3勝目となり、防衛に大きく近づく。
この藤井対伊藤という組み合わせは、現在のプロ将棋界で最も興味深い対決の一つである。両者とも2002年生まれの同学年(24歳)。前回書いた渡辺九段、佐藤九段の対談でも、この二人が現在のトップに抜けているという話が出ていた。これまでの対戦成績は藤井から見て17勝7敗1持将棋。数字だけ見れば藤井が大きく勝ち越しているが、最近は伊藤が盛り返している。もはや「藤井が勝つだろう」と簡単には言えない相手になっている。
今回も面白い将棋だった。
途中、藤井王位が「えっ、そこに指すのか」と思わせるようなハッとする手を指した。ところが、それに対する伊藤二冠の手がまたすごい。「そんな手で返すのか」という、まさにお返しの一手である。普通のプロ棋士の対局なら、「へえ、すごいな」で終わる。しかし、これは持ち時間が双方8時間、2日制のタイトル戦である。二人ともたっぷり時間を使って考えた末に、その手を指している。こういうところが、この二人の対局の面白さだ。
結果は先手の伊藤二冠が143手で勝ち切った。羽生マジックという言葉がある。普通なら考えもしないような手を指して、相手を幻惑する。藤井にも、もちろんそういうところがある。
しかし、伊藤には藤井マジックが通用しない。藤井が「これはどうだ」と投げたボールを、伊藤が「では、これはどうですか」と投げ返してくる。しかも、こちらが予想していないところから。
これで七番勝負は2勝2敗、振り出しに戻った。ここから先、どちらが先に一歩抜け出すのか。藤井が防衛するのか、それとも伊藤が王位を奪うのか。目が離せない。
ログインしてコメントを確認・投稿する