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2026年08月01日10:38

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時代を生きた先祖たち

スポットライト【時代を生きた先祖たち】

【戦時中に敵国の物語を翻訳し続け、その原稿を守り抜いた女性|村岡花子】

空襲警報のサイレンが、街に響き渡る。
一人の女性が真っ先に風呂敷に包んで抱え込んだのは、衣服でも食料でもなかった。
それは、英語の洋書と、自らが書き綴った分厚い翻訳原稿だった。
英語は敵国語として排斥され、持っているだけで「非国民」と白眼視されかねない時代。
彼女はそれを防空壕へと持ち込み、暗闇のなか、戦火から必死に守り続けていた。

なぜ彼女は、危険を冒してまでその外国の物語を守ろうとしたのだろうか。
かつて彼女は、「ラジオのおばさん」として全国の子どもたちに親しまれ、人気を集める存在だった。
しかし太平洋戦争が始まると、ラジオでも戦争のニュースを読み上げることが求められるようになる。
「私の口から戦争のニュースを放送することはできません」
そう語り、彼女は自らその舞台を降りたという。
静まり返った日常のなかで、彼女の支えのひとつとなったのが、帰国を余儀なくされたカナダ人宣教師から託された一冊の洋書だった。

そこには、孤児でありながら豊かな想像力と思いやりで周囲の大人たちを変えていく、一人の少女の物語が描かれていた。
かつて、5歳の最愛の長男を病で亡くし、絶望の淵で「日本中の子どもたちのために優れた家庭文学を届ける」と誓った彼女にとって、その物語を訳すことは暗闇に差し込んだ希望の光だったのかもしれない。
「平和な時代が、必ず戻ってくる」
その祈りを胸に、灯火管制の敷かれた暗い部屋で、彼女はひたすら日本語へと言葉を移し替えていった。
いつか必ず、未来の子どもたちへ届けるために。

そして終戦の頃。
焦土と化した日本の片隅で、その翻訳は誰に知られることもなくひっそりと完成を迎えた。
それから数年後の1952年。
防空壕をくぐり抜けた原稿は、一冊の本となって出版される。
「曲がり角をまがったさきになにがあるのかは、わからないの。でも、きっといちばんよいものにちがいないと思うの」
そう語る主人公の姿は、戦争で心に深い傷を負った日本の人々に、鮮烈な希望と生きる活力を与えることになる。

先の見えない時代に、未来の読者を信じて言葉のバトンを守り抜いた女性。
半世紀以上が過ぎた今も、私たちの心を温め続ける『赤毛のアン』を日本に誕生させた彼女の名は、村岡花子。
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