大学で男声合唱を始めたとき、パートはベースになった。ざっくり言えば、混声合唱のベースに比べて歌う音域が狭いので、高校時代のように高音で苦労することはないだろうと思っていた。しかし実際には、上も下もそれほど出ないのとメンバーのバランスの関係でベースになったのだ。
日本人男性の7割はバリトンだと聞いたことがある。自分の感覚では「8割くらいではないか、いや9割かも」と思う。実際、底ベースからセカンドテナーまで歌える人は多い。一方で、底から響くような本格的なベースや、トップテナーらしい高音を持つ人は少ない。合唱団というのは、実は大勢いるバリトンを、ベースとテナーに振り分けているのではないかと思うことさえある。
声楽を始めて、高い音が出るようになった。そこでようやく、「自分はバリトンです」と言えるようになった。それまでの40年ほどは、無理やりベースを歌っていたのだ。声が合わないのに低音を無理に出そうとすると、声が胸に落ちる。いわゆる「ドボン声」である。声が前に飛ばないので、声楽的には褒められない。しかし、合唱の中では、ある意味で害がない。目立たないからである。
混声合唱でベースが分かれていると、できればバリトンで歌いたい。しかし実際にバリトンで歌うと、声が抜けてしまい、周囲から「うるさい」と思われる。結局、他のメンバーとのバランスを考えて、また無理やりベースになった。
これが、けっこう苦痛だ。
声楽のレッスンによって高音は出るようになった。しかし、低音は練習しても伸びない。相変わらず、無理やり胸に落とした「ドボン声」でベースを歌っている。まあ、疲れないという利点はあるが充実感はない。
40年間、ベースで歌ってきた。しかし、ずっと「自分はベースしかできないバリトンだ」という自覚はあった。声楽を始めたことで、ようやくそのことがはっきりしたのかもしれない。
さて、どうしたものか。
今日は月1回のバッハの練習である。さすがにバッハには、無理な音がない。今日は自分の声を、あまり悩まずに歌えそうだ。
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