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2026年07月20日04:12

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『Shall we dance?』

 「海が好き!2026」https://www.pixiv.net/artworks/146356258参加作品です。
 『聖闘士星矢』の二次創作小説で、時系列的にはポセイドン戦の前年の末の話です。
 真夏開催のイベントなのに、作者が思いついたネタの都合によってw作中季節は冬です。新年の祝賀舞踏会に向けてダンスの練習をする海将軍たちの話。
 自作品でのテティスの描写は、惣領冬実『チェーゼレ』のルクレツィア・ボルジアをイメージしてます。自分の可愛さを分かってる小悪魔的な金髪美少女のルクレツィアたん…いいよね(*´ω`*)
 作中の海界はマイオリジナル設定(『ポセイドニア・コモーディア』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3455689等を参照)に基づいていますが、気にしなくても読めるとは思います。
 昨年の話はこちら。『あなたに甘い花束を』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=25370673
 表紙は湯弐(yuni)様https://www.pixiv.net/users/3989101のものを使用させていただきました。
 はるか様、今年も「海が好き!」を開催していただき、ありがとうございます!

『Shall we dance?』

 神話の時代に戦女神アテナに封印されて長き眠りについていた海皇ポセイドンが目覚めてから十数年。海将軍たちも七人全員が集まり、翌年の三月には憑代たるジュリアン・ソロも十六歳になり、いよいよ海皇ポセイドン様が本格的に覚醒して女神アテナを戴く聖域との聖戦の始まりだ!と皆の戦意も高まっていったその年の終わりごろ。

 クラーケンのアイザックは舞踏の特訓を受けるはめになっていた。

「はい、左へ二歩、次に私がターンしますから…」
 人魚姫(マーメイド)の海闘士であるテティスがアイザックの相手を務めながら踊り方を教える。しかしテティスが体を回転させる際に、アイザックはうまく呼吸が合わずに彼女と腕がぶつかってしまった。
「ご、ごめん、テティス!」
「大丈夫です。次は横向きに並んで前へ三歩、そして向かい合って、男性が女性を支えてジャンプさせて…」
「え、え、えと…」
 テティスにリードされる形で前に歩いたアイザックだが、また呼吸が合わず、今度はテティスと肩がぶつかった。
「ご、ごめん、また…」
「いいですから。そのまま続けて」
 と、アイザックはテティスのリードに従って一連の動作を最後までやり通しはしたが、ぎくしゃくとした動きは美しいペアダンスになっているとは、とうてい言いがたかった。
「まだまだだなぁ…」
 アイザックの有り様に、踊りの指南役を務める海馬(シーホース)のバイアンがため息をついた。
「そんなに難しい踊りではないだろ?ワルツのように一対一のペアで踊るものでもなく、集団で行う輪舞だし。どうしてこれだけのステップが覚えられないんだ?」
「いや…そうは言われても…」
「女性陣が内側で輪になって、男性陣は外側で輪になる。それで向き合ってまずは一礼。それから右へ二歩、左へ二歩、女性がターン。今度は横に並んで反時計回りに三歩進む。また向かい合って女性のジャンプを補佐、そしてお互いに一礼。そしたら男女が逆方向に前へ進んで次の相手に移る。これだけじゃないか」
 バイアンが一人で一連の舞踏の動きをアイザックに示して見える。
「いや、これだけと言われても…」
 さも簡単そうにバイアンがやって見せたその一連の動作が、アイザックにとっては敵と殴り合うよりもはるかに難易度が高いのだった。
「思うに、アイザックはリズムに乗せて体を動かすということ自体に慣れていないのでは?」
 自らフルートを吹いて舞踏のためのメロディを添えていた海魔女(セイレーン)のソレントが、そう疑問を呈した。そう言うソレント自身はというと、もともと音楽畑の人間な上に社交ダンスの経験もあるということで、バイアンから教えられたステップはすでに一通りマスターしているのだった。
「そ、そう!おれはダンスとかやったことがないし!それに女性とペアで踊るのも…」
 もごもごと口籠りつつアイザックが言い訳をする。テティスのような美しい少女と一対一に向き合って手を取るのも、これまたアイザックには人生での初経験であった。正直、テティスと手をつなぐだけで心臓がばくばくと鼓動してしまう、純朴なお年頃なのである。
「はあ…。もう回数をこなして、体で覚えるしかないな」
 踊りの種類はまだ他にもあるのに…と続けたバイアンの台詞に、絶望的な表情になるアイザックであった。
「大丈夫だ、アイザック!私も最初は全然だったけど、何とかなったし!」
 同じく舞踏の練習…というよりは過去に覚えたステップの復習をしていたスキュラのイオが、新規加入の同僚を励ます。
「うむ。イオの最初のころを思えば、アイザックの方がまだ希望はある」
「イオっちのドタ足ぶりは、そりゃあ酷かったですからねぇ」
 イオと同じようにステップの復習しているクリュサオルのクリシュナとリュムナデスのカーサが相槌を打った。
「…なんか、みんなして私のことを馬鹿にしてる?」
「してない、してない」
「そうそう。努力が重要という話っすよ」
 イオが抱いた疑惑をさらっと受け流す海将軍たちであった。
「しかしあまり低いレベルで満足してもらっても困る。次の新年祝賀舞踏会は、十五歳になったテティスが初めて参加する公式舞踏会。いわばデビュタントだからな!彼女に恥をかかせるようなことには…」
「で、でびゅ…?」
 バイアンの口から出た馴染みのない単語をアイザックが復唱した。
「『デビュタント』。若い令嬢が初めて参加して、社交界デビューをする舞踏会のことさ。まあ、海界にはそういう慣習はないけれどね。でもテティスにとっては初めての公式舞踏会なのだから」
 そう、なぜ海将軍たちが舞踏のステップを練習をしているかというと、次の新年に開催される新年祝賀舞踏会にそろって参加しなければならないからである。そこで行われる舞踏には、男性と女性がそれぞれ輪を作って踊る輪舞の他、男女混合で一列になって踊る舞踏や男女が一対一で踊る舞踏など複数の形式があって、その全てのステップを彼らは舞踏会の開催までに習得しなくてはいけないのだった。
「…え?ちょっと待って?テティスが十五歳になったから、初めて参加って…」
「そう。この世界では未婚の女性が公式行事に参加するのは、十五、六歳が目安で…」
「ちょ、ちょっ…!それなら、おれはまだ十三歳だ!舞踏会には出なくてもいいんじゃ…!?」
 バイアンの説明にアイザックが手を挙げて懸命に主張する。年齢を理由に不参加ですむなら、アイザックにとってはそれが一番である。
「だめ。今回の舞踏会は新たに加わった『クラーケン』と『海魔女(セイレーン)』の海将軍のお披露目も兼ねてるから、海将軍は全員参加ってのがシードラゴンからの命令」
「う…ぐ…」
 海将軍筆頭の命令によって不参加の希望をあっさりと打ち砕かれたアイザックは、うめくしかなかった。
「さあさあ、落ち込んでる暇はないぞ。練習あるのみ!」
「ぐうう〜…」
 手を叩き、バイアンが練習を再開させる。テティスの他に、別のニンフたちも海将軍たちの相手役として加わり、さらに伴奏役を別のニンフたちに交代してソレントもステップの復習に励んだ。そうして一同が舞踏の練習をしていると。
「仕上がりはどうだ?」
 彼らの練習室にひょっこりと顔を出したのは、海将軍筆頭・海龍(シードラゴン)のカノンだった。海界の統治者として毎日のスケジュールがびっちりな多忙な日々を過ごしているカノンだが、執務が一段落したので皆の様子を見に来たらしい。ちなみに新年祝賀舞踏会は、海界の中心都市ポセイドニアの政府が主催する、毎年恒例の公式行事である。なので主催者はポセイドニアの元首を務めるカノンであり、海将軍たちが参加するのも至極当然のことではあった。
「まあまあです。アイザックはまだ時間がかかりそうですが、開催までには三週間はありますし、練習を繰り返せば何とか形になるでしょう」
 バイアンが一同の成果をカノンに報告する。
「そうか。来週には舞踏会の衣装が仕上がってくるからな。それを着た上で踊れるように、皆で慣れておいてくれ」
「はい」
 うなずくバイアンの傍らで
「衣…装…?」
 アイザックがまたもや首を傾げた。
「ほら、この世界での正装って、基本的に布をぐるぐると体に巻き付けるタイプだからさ。あんまり動きやすくはないんだよな〜。でもまあ、慣れたら何とかなるから!」
 イオがアイザックの耳元でささやいて励ました。
 そうなのだ。古代ギリシャの文化を受け継ぐ海界では、男性の正装とはタキシードなどではなく、Tシャツ状のチュニックにヒマティオンという大ぶりの布を巻き付けるタイプの服装である。優美かつ荘厳ではあるが、体型に合わせて裁断や縫製がされた服ではないので、激しい動きに向いているとは言いがたい。それを着こなした上で、衣装の裾も踏まず、着崩すこともせず、舞踏会に参加する着飾った貴婦人がたと巧みに踊らないといけないのだった。さらに成功までのハードルを上げられたアイザックは、絶望を越えて虚無の表情になった。
「それでだ、アイザック」
「は、はい!」
 突然にカノンに声を掛けられ、驚いたアイザックが裏返った声で返事をする。
「お前の左目だが…どうする?」
「…え?」
「いや、傷跡が気になるなら、眼帯や仮面を作って隠すこともできるが?」
「………」
 カノンに言われ、左目の傷跡に手を当てて、黙って考え込んでしまったアイザックであった。
「あ〜…。確かに。我々は気にしないが、舞踏会に参加するご婦人たちにとってはな…」
「おれなんか、このご面相ですからね〜。毎回、違う仮面を作らせて顔を隠してるんすよ。それが『正体不明のミステリアスな男』ってことで、わりとご婦人たちに好評だったりするし。この際、アイザックも綺麗な眼帯とか仮面とかを傷隠しに作ってもらってもいいと思うっすよ?」
「う…ん…」
 カーサの勧めにあいまいな返事をするアイザックだった。自分では傷跡はそんなに気にならないし、もうちょっと前髪が伸びれば隠れるのでは?とも思うが、華麗な衣装を身にまとった貴顕貴婦人たちの集う舞踏会では、武骨な傷跡がむき出しなのは場の雰囲気にそぐわないかもしれない。
「少し…考えておきます…」
「そうか。また考えが決まったら言ってくれ」
 そう言って部屋を後にしようとしたカノンだったが、テティスが声を上げて彼を引き留めた。
「シードラゴン様!私と踊ってください!」
「ん?」
「ね!ね!一曲だけでいいですから!」
「…ああ」
 テティスのおねだりに、カノンは苦笑に似た笑みを浮かべて室内に入ってきた。伸ばされたテティスの白い手を取り、ニンフたちが引く伴奏に合わせてメヌエットを踊り始める。すでに地上では廃れた、ゆっくりとしたテンポの上品な舞踏である。
「シードラゴン様。私、舞踏会では最初はシードラゴン様と踊るって決めてますから」
「おれと?」
「いいでしょう?ね、一番最初と最後は、テティスと踊ってください、シードラゴン様」
 メヌエットのリズムに合わせて、ひれの長い熱帯魚のように美しく舞うテティスが、カノンに新たな「おねだり」を始める。
「おれでいいのか?」
「シードラゴン様がいいんです。お願いします」
 カノンは苦笑し、テティスの「おねだり」をまたもや受け入れた。
「…いいぞ」
「嬉しい!」
 満面の笑みを浮かべてカノンと踊るテティスの姿に、バイアンが愚痴った。
「ひどいなぁ、テティス。私たちとは踊ってくれないのか?」
「もちろん、皆さんとも踊ります。でも最初と最後はシードラゴン様です!」
 嬉しそうにバイアンに返して、テティスは優雅なメヌエットを踊り終えた。カノンに向き合ってテティスが彼に一礼し、またカノンもテティスに礼を返した。
「私の衣装が出来上がったら、また一緒に踊ってくださいね、シードラゴン様。衣装を着て踊る練習もしておかないと」
「ああ」
「うふふ…。すっごく綺麗な衣装なんですよ。深い青色に金糸の刺繍で…白いレース飾りもついていて。お姉様方がアクセサリーも貸してくださるって」
 海界のニンフたちは、「白い女神」レウコテアのもと、「白い館」で共同生活をしている。彼女たちは互いを「姉妹」と呼び合う関係で、一番新しく誕生したニンフであるテティスは、年長のニンフたちから末の妹として大変に可愛がられているのだった。
 さも楽しそうに自分に報告してくるテティスの明るい笑顔に、カノンも頬をほころばせた。
「青地に金糸の衣装か。お前の金色の髪と青い瞳によく映えそうだな」
「うふ。舞踏会、とっても楽しみです」
 幸せそうにカノンに笑いかけるテティスを見て、他の海将軍たちはささやくのだった。
「テティスは、本当にシードラゴン様のことが好きっすよねぇ…」
「うん」
「悔しいけれど、シードラゴンには勝てないよなぁ…」
 カノンが小さな子供に言い聞かせるように、テティスの頬を軽くたたいて話しかける。
「来年の三月には、十六歳になったジュリアン様をお前に迎えに行ってもらうからな。それまでに海皇ポセイドン様の側近として恥じない、立派なレディになっておくんだぞ」
「はい!私、頑張ります!」
 カノンからの指名を受けたテティスは、彼女にとっての「夢の王子様」であるジュリアンとの再会の希望に喜びを膨らませて、輝くような笑顔を見せるのだった。
 聖域との戦いが始まる前の、一時の平穏を得ていたころの海界の出来事である。

<FIN>

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